花狂いとカタストロフィ - [ 短編集 ] -

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連れてこられた旦那の家の裏には

大きな桜の樹があった。






手を繋ぎ、その下に2人並ぶと

「ずっとお前を俺だけのものにしたかった」と
旦那はぽつり呟く。









「…わっちは主さまをお慕いしてござりんした」

「ああ。だがその言葉を他の男の為に言って欲しくはなかった」

「…主さ、」

「俺は、他の誰にもお前を渡したくなかった。
…狂っていいと申しただろう。その通りにさせてもらった」








そして夜の暗がりの中で私に振り向き、


「俺はお前に出会って更に狂ってしまった」と言い


涙を一筋流した。










「俺は……昔から心に棲まう獣がいる。

そいつは平気で人をも殺めるのだ。欲しいもののためならば…平気だ。

……いつだって」









旦那から香る危険なにおいの正体はそれだったのだ。







それを聞いてハッとする。



私のところへ通えるだけの富、高価な贈り物、

身請け話……





全部





人を亡きものにしてから奪ったものだったと

ようやく合点がいく。








旦那の冷たい手が私の頬に触れ、

くちづけを交わそうと近づく唇をふいに払ってしまった。








「……愛せないか？こんな俺は」

「…人を殺めて手に入れたものなどいりんせん、！」

「……そうだな。……ああ、御免な」

「……今すぐこの手を離しておくんなんし、！」

「……御免、」

「好かねえことを言いなんすな！！」








後退りながら威嚇した手を掴まれると

旦那に簡単に奪われる唇。






何度も何度も重ねた唇が

今は苦しく、……こんなにも狂おしい。






拒みたくて、振り上げた腕で旦那の体を遠ざけようと殴ろうともびくともしない。











だが次第に涙を流しながら私を離さない旦那を

私も涙を流して受け入れた。








不器用でもひたむきに私を愛し

自信のない幼な子のようでありながらも

時にどの主よりも情熱的に抱き、

私を自由にしてくれた





愚かで狂っている犯罪人の彼と









「……愛してる。…………A」










まるで


心中する


そんな覚悟を。









だって

幼き頃から廓に閉じ込められた人生で

どう生きてゆけば良いかも分からぬのならば











「命ある限り……、お前を愛させて欲しい」














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いつか彼が奉公衆に捕まり

皆の前でその首を刎ねられてしまうその日まで



彼と心中した気になって

共に居ようと腹を括った











End

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