花狂いとカタストロフィ - [ 短編集 ] -

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目の前でにこやかに笑う彼は紛れもなくあの阿部さんだった。




とんでもない変身。

あれほど野暮ったかった髪は茶髪になり、
ふわっとしたパーマでそれをあざとく耳にかけている。





分厚い眼鏡は消え、憧れていたコンタクトにしたらしい。


「未だにつけるのがちょっと怖くて…」なんて首に手を当ててあははと笑う。






身なりもしゃんとしている。


猫背気味だった背は真っ直ぐに伸び、
そのおかげでもともとスタイルが良かったのが活きて
高くて上品なスーツがよく似合うようになった。






何故ここが？と聞くと彼はまた困ったように手を首に当てながら言う。






「いやあ〜、何故っていうか…僕は別れてからもずっと貴女の動向を追ってて…。
あ！待って待って訂正！僕はほんと別れたとかは1ミリも思ってないからね…？」







聞いた私が馬鹿だった。

不気味さと気持ち悪さは今もなお健在で、久しぶりに私の皮膚が鳥肌をたてて拒否反応を示す。





そんな私の腕をグッと引くと、

「会いたかったよ？僕がどんなにこの身体に触れたかったか…」と涙目になってなんとその場でキスを試みる阿部さん。






その顔をグッと掴んで押しのけると
「何でっ！？ひ、ひどい…！親にもぶたれたことないのに…！」と箱入りボクちゃん全開で喚いた。






「なに！？中身全然変わってないじゃない！
変わってないどころか気持ち悪さ増してる…！！！

なに！？ほんと……！

ちょっとはカッコよくなったと思ってときめきかけたのに……」








そう言った途端、勢いよく後頭部を引かれて

塞がれる唇。




んっ！と声をあげる間もなく侵入してきた彼の舌、

湿り気を帯びたその手は、私のドレスの背が開いてる
部分にそっ…といやらしく触れた。








「はあっ…、…っ、今度こそ、愛し合おう…？
…僕たち……」

「……っなんで」

「何でって僕のこと格好いいって思ったんでしょう？
僕はね、貴女の為に、生まれ変わったんだよ…？」







近くで見つめ合うと、前髪が長かった彼は

実はこんなに瞳が魅力的だったんだってことに気づく。





…こんな人なのに、

箱入り息子で、ちょっと気持ち悪くて、すごく粘着質なのに。…なのに。









「あの日、僕に身体を許してくれたよね？

あの日から僕は貴女のもので、貴女はずっと、
僕のものなんだよ……？」











これが“ 屋烏の愛 ”ってやつなのねと

頭を掠めてしまったの。……私。










End

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