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# 26 ページ26

「俺、一人暮らししようと思って、マンションとかいろいろ見に来てたんです。

…東京を選んだのは、もしかしたらいのおせんぱいに会えるかも、なんて、思ったからなんですけど…。」



小さく笑う山田くんを見つめることしか出来ない俺。

目を合わせることはできなくて、穴があきそうなほどその柔らかそうな頬を見つめる俺に、山田くんは恥ずかしそうに微笑む。



「それで、内見しに東京に来て、
このマンションに来たんです。

そのとき、ロビーにあるポストに、
伊野尾って書いてあるのが見えて。

伊野尾なんて名字、そんなに、というかほとんどいないし、もしかしたらいのおせんぱいなんじゃないかって思いました。

でも、いのおせんぱいだって決まったわけじゃないし、ひょっとしたら俺が知らないだけで伊野尾って割と一般的な名字なのかもとか思ったりして。

半信半疑でした。」



今考えたら、やっぱり伊野尾さんなんてそうそういないですよね、と山田くんは笑い、一息ついた。
俺はちゃんと笑えていただろうか。



「それで、このマンションから駅までの道、
ずっと考えてました。
あそこにいのおせんぱいが住んでるのかってことだけじゃなくて、高校時代のこととか、いろいろ。

で、あの例の曲がり角に来た時、
にゃあって声が聞こえてきたんです。

驚いてぱっと下を見たら可愛らしい三毛猫がいて。
しゃがみこんで鳴き真似をしてみたんです。
にゃあ〜、って。ふふ、結構似てるでしょ?

…じゃなくて、
そしたら俺をちらっと見て、
行っちゃったんです、三毛猫。
何にも言わずに。

その姿見たら、なんか、
…いのおせんぱいみたいだなって思って。」



何も言えなくなった。


大切なこと何一つ言わずに山田くんの前から消えたあの時の俺。


やっぱり山田くんは覚えている。
普通のフリをして振舞ってくれていても、
俺が彼を傷つけたことには変わりない。


俯いて黙りこくった俺に、
山田くんは焦って訂正する。



「あ、いや、その嫌味とかじゃなくて、…。」



「ごめん。わかってるよ、続けて。」

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ゆめまる。 - 早く更新して欲しい!! (2019年1月5日 22時) (レス) id: 03ea0da012 (このIDを非表示/違反報告)
# や ま だ り さ(プロフ) - はじめまして!この作品とっても面白いです!これからも頑張ってください!あ、宣伝してもいいですか?「〜HSJのBL短編集〜」っていう作品を書いてるので是非見に来てください♪評価お願いします! (2018年11月26日 7時) (レス) id: b6b48a1626 (このIDを非表示/違反報告)
りょんな - あんこさん» お読みいただきありがとうございました!素敵なお話だなんて…嬉しすぎるお言葉です…。 (2018年11月24日 23時) (レス) id: a65994f48d (このIDを非表示/違反報告)
りょんな - あひる☆さん» いつも楽しく読ませていただいております〜!!続き、書いてみようかなぁなんて思っていたり…!もしお話公開したら是非見に来てくださいね♪ (2018年11月24日 23時) (レス) id: a65994f48d (このIDを非表示/違反報告)
あんこ - はじめまして!とっても素敵なお話でした…お疲れ様でした!! (2018年11月24日 17時) (レス) id: 31e5093717 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りょんな | 作成日時:2018年11月11日 17時

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