退勤電車 (ページ7)

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目の前の乗客が慌てて降りて行くのを見送り、私達は隣同士に座った。

「ところで、あの子大丈夫かな？今日元気なかったよな」

「他部署から来た私の同期ですか？元気なかったかな......あまり印象になくて」

「ははっ、俺Aのそう言うところ好き、ちょっと冷めてるところ」

「違いますよ？興味ないって意味じゃなくて、今日のあの子静かだったから。ウォヌ先輩が彼氏のこと聞いても珍しく塩対応だったし」

「いつもならこっちが聞かなくても勝手に惚気るのにな」

私だってウォヌ先輩の、私にだけ優しいみたいなところが好きだ。私が特別なんだって思えるから。

「俺もそろそろ異動かな......」

「え......」
　
そんなの嫌だ。
この人から離れたくない。

「なんて顔してるの。まだ決まったわけじゃないよ、でもずっとこのままってことはないからさ」

「分かってます、でも寂しくて」

先輩は気付いているの？
私が残業したり、慌てて業務を終わらせてまで先輩と一緒に帰れるように調整してきたこと。
一緒に帰るこの時間が私にとってどれだけ幸せなのかを、先輩は知っているの？

「私、ウォヌ先輩が結婚してなかったら絶対好きになってました」って言ってしまいたい。

嘘......結婚してても好きだけど。

そして帰って想像するんだ。
好意を伝えたら先輩がどんな反応をするのか。

もしかしたら抱きしめてくれるかもしれない、キスしてくれるかもしれない。
そう思うと、本当にそうされたみたいに心臓が高鳴る。

先輩が異動するかもしれないという不安を胸にしまい込んで、今この時間を噛み締めながら静かに電車に揺られた。