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「......A、強くなったよな」
涼しげなのに、ふわっと暖かく微笑む目元。
なんて優しい表情なの。
こんな顔、私だけに見せてほしい。
「それに、大人っぽくなった。髪も伸びて、ネイルもして」
先輩の目線が私の手に向けられたから、吊り革を離して綺麗にジェルを施した指先を見せる。
「顧客へのちょっとした色仕掛けです」
と悪戯っぽく笑いかけると、
「危ないこと言うね。まぁいいと思うよ、Aの武器だから」
可愛いってこと、と付け加えられた言葉に心の中で悶えた。
ーーあっ!!
直後、急に電車が大きく揺れ、私はバランスを崩してウォヌ先輩の肩にしがみついた。
抱き止めようとしてくれたのか、先輩の左腕が中途半端に浮いていた。
至近距離でバチっとかち合う視線。
切れ長の目が、若干だけど驚きで見開かれる。ウォヌ先輩の奥二重がはっきり見えるアングル。
「......すみません」
すぐに体を離して吊革を掴む。
たった一瞬だったけど、危険だった。
初めて触れたウォヌ先輩の体。
スラっとしている割にしっかりとした厚みのある筋肉の弾力。
これまで何かを渡す時に指先が触れることは何度かあったけど、それ以外は知らなかったから。
2年以上溜まり続けた「好き」の雫が、確かな容量となって天井スレスレまで来てしまっている。
溢れるのはもう時間の問題だ。
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作者名:SALAN | 作成日時:2023年2月6日 13時