シガーキスはあなたと (ページ30)

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「ミンギュありがとう。私、ちゃんと伝えるよ」
「おお、頑張れ」

ソクミンにしてたみたいに私の頭を撫でるふっくらした暖かい手。

見上げればオレンジがかった自然光を受けて形の良い影を作る彫りの深い顔と整った眉、描いたようにくっきりした二重瞼。
目尻だけ吊り上がってて、犬っぽいと思ってたけどちょっと猫っぽいな......とか。

こんなイケメンを至近距離で見れば誰だって緊張してキュッと目を瞑ってしまう。

「ねぇ、Aさんキスしたことはある？」

突然すぎる質問に、やっとこさ開けた目が点になる。

「え？そりゃあ、あるでしょ」
「なんだ、恋愛初心者かと思ってた」

恋愛初心者っていうのは否定できないな。
大層な恋愛してきてないし。

「そっちは煙草初心者」

苦し紛れの反論を煙と一緒に吐き出せば、彼は笑って新しい1本を咥える。

少し屈んで「ん」と口を突き出すから、火を付けろってことなんだろう。
意図を悟りつつあえてライターを出そうとすると、肩に手を置かれて私の煙草と先端同士を付けた。

ジリッ......と音を立てて点った火種。

「サンキュ」
「これ、楽しいの？」
「うん、覚えたての火遊び」

これから告白の返事をしに行く私にこんなに顔を近づけて、なんてことするんだこの人は。

でもその一瞬、彼に惹かれているのを自覚した。

そのすぐ後だった。

「あら、お客さん？」

声がした方を見れば、食材がいっぱい入った袋を持った女性。

ヌナ！と駆け寄って荷物を受け取るミンギュに「お客さんの前では"店長"でしょ」と小声で注意する彼女。
私が軽く会釈をすると、その人はにっこりと微笑んだ。

「ありがとう、また来て」
と口パクするミンギュに頷き、二人が店に入っていくのを見送る。

あの人が日本で知り合った人か、綺麗だったな......
勝手に男性だと思っていたが、女性だった。

確かに、あの店からは洗練された女性らしい雰囲気を感じる。
まるで美術館のようなあの空間の中で、彼はさながら一番の美術品と言ったところか。

ふと、さっきのあれをあの人に見られていなかったか不安になった。

本当にキスしてたわけじゃないのに。

私とミンギュは何もない、同期繋がりの新しい友達っていうだけなのに。

伸びた影を踏みつける足はオフィスへと戻っていく。

もうすぐミョンホの定時になる。
声をかけて、一緒に帰るんだ。

好きだと伝えるんだ。