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「とりあえずビールください」
カウンターに突っ伏したままそう言えば、「ヤケ酒するならあげないよ？」という声が頭上から聞こえて
「するつもりだった」と透かさず返せば「じゃああげない」と返された。
「お酒飲みたい気分なの！」
パッと顔を上げて、ムッとした顔をして智くんを見る。
智くんはいつも通り優しい面持ちで「何があったの？」と訊いてきた。
「思い出したくないことを思い出して病んでる」
「昔の失恋？」
「…うん」
見た目に反して目敏い智くん。私が分かりやすいのも一理ある。
そう言えば前に、智くんにこの話したことあるんだっけ？
酔った勢いか何かで言ったのかもしれない。あんまり憶えてないけど。
「もう忘れたはずだったのに…思い出しちゃった…」
「何で思い出したの？」
「潤くんのせい」
「潤くん？…あー幼馴染の？」
「うん。アイツのせいだよ…潤くんのバカ」
感情の捌け口が分からなくて「潤くんのせいだバカ野郎」とかボソボソと言葉を吐き出していれば、「誰がバカだって？」と言う声と共に、バシッと背中を叩かれた。
頭上から聞こえて来た声と、叩かれた衝撃で反射的に突っ伏していた顔を急いで上げれば、私の左隣にストンと腰掛けて来たのは潤くんだった。
「わっ…！びっくりした…何で潤くんいるの」
「飯食いに来ただけだけど？ココは別にお前だけの憩いの場じゃねぇだろ？」
ごもっともな正論を並べられた。確かにココは私だけの憩いの場ではないし、普通にご飯を食べに来ても何も可笑しくない。
「あ、イケメン！」
「お久しぶりです」
智くんが潤くんに気付いて、「今日も相変わらずイケメンはイケメンだねぇ」とふにゃふにゃ笑いながら言えば
「それいっつも思ってたんすけど何すか」と潤くんがちょっと呆れたような顔してそう言い返した。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年12月2日 19時
