＃12.野イチゴの毒の有無 ページ25
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「A…」
喫茶店を出て二宮さんと別れたあと、潤くんが怪訝そうな顔で私を見た。
今日が私の誕生日だって知った二宮さんが「元々付き合わせたのは俺だし、Aちゃん誕生日なら俺が払うよ」と言って三人分の会計をしてくれた。
潤くん曰く、ケチな二宮さんが奢ってくれることは稀らしい。
だから「飲み物代くらい黙って奢って貰っとけ」と言われ、その言葉通りに甘えさせてもらった。
去り際、「じゃあまたね」とにこっと可愛らしく笑った二宮さんは、やっぱり可愛い男の子って感じだった。
同い年なのに年下の可愛い男の子みたい。
「ごめん、潤くん」
明らかに不満な顔つきの潤くんに、咄嗟に謝罪の言葉を口にした。
確かに踏み込み過ぎたのかもしれないけど、二宮さんは自分から翔さんのことを話してくれたし、癇に障るような質問はしていないはず。
それに、直接的には言葉にしていない。回りくどい言い方で誤魔化した。
だけど二宮さんは頭が良いのか、察する力があるのか、私の気持ちを全部汲み取って答えてくれた。
「…まあいいけど。カズが勝手に喋ったようなもんだし」
腑に落ちたのか落ちていないのか分からない顔をする潤くんに、とりあえず「ごめん」ともう一度謝る。
「アイツもベラベラ喋れることでもねぇのに。俺だって全部は知らないし」
「潤くんはどこまで知ってるの？」
「知らないことの方が多いのは確か」
「…そうなんだ」
「でもカズが全部悪いわけじゃないことだけは言える。櫻井さんはカズの気持ちを理解してるだろうし」
「それは、」
「だから踏み込むなよ、これ以上。Aも色々あるだろ？」
私の声を遮り、釘を刺すように潤くんが強い口調で言った。
色々あるだろ、という言葉が、ズキッと刺さった。
誰にだって知られたくない、思い出したくない、そんな苦い記憶がある。
自分の立場に立って考えろ。潤くんは私にそう伝えたいのがすぐに分かった。
その通りだ。何も反論できない。
私がもし二宮さんの立場だったら、きっと嫌な気持ちを抱く。
初対面の相手に対して、話したくもなかったかもしれないのに、二宮さんは翔さんとのことを教えてくれた。
きっと快く話せるわけないのに、進んで話してくれた。
私だったら話したくない。自分の苦い過去のことなんて。
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作者名：妃紀
| 作成日時：2018年12月2日 19時
