ー 弐拾玖 話 ー ページ30
「ほんまに、ほんまに無理を言よる事は分かっとる…封印がこんなはよ解けるなんて、俺らも思って無かった…!」
そう言うゾムの声も、酷く震えていた。
どれだけの思いを、この人達は背負っているんだろう。
何も知らない私が、いや、未だ何も聞かされていない私が、ここまで首を突っ込む必要があるのだろうか?
ここ最近、考えてばかりで頭が痛む。
そんな私に畳み掛けるようにコネシマさんが言った。
「…あの時のように、全員、殺される前に…手を打たないかんねん」
「…!」
“あの時”
それがいつを指すのかは、私には分からないけど____。
「…私、1度言ったことは曲げませんよ」
ヒーロー気取りをしている訳ではない。
ただ、嘘をつくのが嫌なだけだった。
…酷く痛む心には、知らないふりをしていたかったのに。
「…なら、今日の夜…ゾムとここに来い」
「でも、鍵が開いてないんじゃ、?」
そう聞くと、先生が隣で口を開いた。
「マスターキーを、お渡しします…Aさんの事は、信用してますから。無くさないようにお願いしますね」
「…分かりました」
先生が立ち上がり、私を見る。
その色素の薄い目が私をはっきりと捉えた。
「…私は別の場所でしばらく職員同士の会議がありますから、行けないんです。お二人ともどうか気をつけて…」
先生はそう言って「すみません、あとは頼みます」とどこから取り出したのか私にマスターキーの束を渡して部屋を出ていった。
再び、沈黙が流れる。
それを破ったのは私だった。
「…コネシマさん、私は具体的に何をすれば?」
「前も言ったやろ、その場におるやつに、話を聞いてくれ。名前呼んだら反応する筈や…俺みたいに」
その時、コネシマさんの瞳が揺らいだような気がした。
「…時間が無い、急かして悪いねんけど…頼んだで」
「…はい」
小さく返事をすると、コネシマさんが何かを取り出して、「手ぇ、出してみ」と言ってきた。
私が片手を彼に差し出すと、コネシマさんは私の手に何かを握らせた。
「…これ、」
おそるおそる握られた手を開けば、そこには小さな巾着袋があった。
「お前に、やる」
「…私に、ですか…?」
手に取って良く見てみると、彼と同じ金木犀の香りがした。
「…お守りみたいなもんや、肌身離さんと持っとけよ 」
目を細めて笑う彼は慈愛に満ちていた。
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汐里(プロフ) - 夢花(仮垢)さん» コメントありがとうございます(^ ^) ほんとはhtrnさんも出したかったんですが、人数の都合上で...汗 楽しんで頂けたら幸いです!これからもこの作品をよろしくお願いします(-人-) (2019年11月23日 11時) (レス) id: 4d2571021c (このIDを非表示/違反報告)
夢花(仮垢) - 花が好きなの、hらんらん先生や無かった…意外…でもrbさんに花持たせたい…絶対かわいい……ニヨニヨ(( 続き楽しみにしてます! (2019年11月23日 11時) (レス) id: 1ce7d18474 (このIDを非表示/違反報告)
汐里(プロフ) - saikaさん» コメントありがとうございます(^ ^) 確かに和風あまり見ないですよね...完全に私の好みを小説にしてしまいました笑 お褒め頂き光栄です!これからもこの作品をよろしくお願い致します(-人-) (2019年11月22日 18時) (レス) id: 4d2571021c (このIDを非表示/違反報告)
saika(プロフ) - コメント失礼します....!wrwrdの作品で和風系の作品はあまり見ないので凄く新鮮で面白いです.....!登場人物の描写からなにから何までとても好きです.....!これからも頑張ってください!!!! (2019年11月22日 17時) (レス) id: dff2d77afc (このIDを非表示/違反報告)
汐里(プロフ) - あややさん» コメントありがとうございます(^ ^) お褒めの言葉を頂き光栄です...!励みになります。これからもこの作品をよろしくお願いします(-人-) (2019年11月10日 7時) (レス) id: 4d2571021c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:汐里 | 作成日時:2019年11月8日 19時