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ペラペラと本を捲る音だけが響く図書室。
あれから長い時間お互い無言で本を読んでいたが、隣に座る柴崎はもう読み終わってしまったらしく、私の髪を弄んでいる。
『そろそろ帰る?』
岳「もういいの?」
『うん。キリいいとこまで読んだ。』
岳「じゃあ帰るか。」
気がつけば外は真っ暗。部活の声も聞こえなくなっていた。
岳「あ、部室寄ってっていい?」
『いいよー。』
岳「ちょっと待ってて。」
小走りで去っていった柴崎の後を追ってゆっくりと歩く。ふと目に入ったのは明かりの付いた体育館。
なぜだかわからないけれど、吸い寄せられるように足を踏み入れた。
誰もいない体育館とそこに転がるバスケットボールが1つ。
恐る恐る持ち上げたボールの久しぶりの感触と懐かしい重み。ゆっくりとそれを床に落として2、3回ドリブル。
手に吸い付くような感覚とダムダムと音を立てる懐かしい音色。
私はこれが大好きだった。
ゆっくりと放ったシュートはガシャンとリングに弾かれる。そりゃそうだよね。
何度かシュートを打つとボールがゴールに吸い込まれていった。ゴールした時に聞こえるネットが揺れる音が気持ちいい。
私はこの感覚が大好きだった。
パチパチパチと聞こえる拍手にハッと目を向けると、柴崎が入り口に立っていた。
岳「うまいじゃん。さすがだね。」
『.....ごめん、帰ろ。』
岳「もうちょっとやろうよ。」
パス!と言って手を上げる柴崎にボールを投げる。それをキャッチすると彼はぎこちないドリブルをしながら私の隣に並んだ。
岳「左手は添えるだけ、でしょ?」
『うん。』
ぐちゃぐちゃなフォームで放たれたボールはガシャンとリングに弾かれる。
『下手くそー。笑』
岳「俺手使う競技できない。笑」
ヘラッと笑ってから渡されたボール。手のひらを伝って指を離れたそれはゴールへと吸い込まれた。
岳「やっぱうめー。」
もう1回やって、と投げられたボールをキャッチ。
パシッと手に収まるボールのこの感覚が
私は大好きだった。
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作者名:Pin | 作成日時:2016年1月27日 23時