【HSJ】Canvas2

paint12 ページ12

「そろそろホントのこと言いなよ。僕たちの邪魔をしに来たの？」

「さぁ？それは知念の想像にお任せ。」

「言わないってことは、非公式って訳だ。」



知念が強気で発言する後ろで、雄也が光くんをそっと落ち着かせている。
親友と担任でありながら部活の顧問の先生。
その大切な両者がこんな形で争う事になるとは、昨日の自分は想像できなかっただろう。


「最初はびっくりしたよ。知念が学生として潜入してるんだから。」

「それは僕もびっくりしたよ。だけどそういう研究なんだから仕方ない。」

「そのお蔭で俺も楽しく教師生活を送れた訳だから、少しは感謝しないとね。」

「……どういう意味。」


更に強くなった知念の語気に思わず言葉を失ってしまう。
憎しみを込めた瞳と怒りの籠った口調。
今の知念を動かしているものは、きっと突発的な感情。


「そのまんまの意味だよ。感謝の気持ちを込めて教えてあげる。化学室に行ってごらん。」

「化学室？」

「化学教師として潜入したのは正しい判断だったみたい。だって化学の教師が化学室を使うことに誰も疑問を持たないからね。」



あっ、と思わず声を上げそうになった。
噂の化学室の謎がやっとつながった。


「涼介も気付いたみたいだね。そうだよ、あれは俺。化学室って便利だよね、色んな薬品も置いてるし。」



薬品？
またゾッと寒気が襲う。
その笑顔の下で狂気じみたものを秘めていた薮ちゃんに、だ。



「俺の方が行動的だけど、伊野尾の方が攻撃的ではあるから圭人が無事だとは限らないよ。」

「……圭人は？」

「伊野尾と一緒に化学室。」

「なら安心だ。」



ニッと口角を釣り上げた知念がニヒルな笑みを浮かべる。



「単純に圭人の方が力が強い、っていうのもあるけど光がこっちに居る以上、手出ししないだろうからね。」

「相変わらず悪知恵だけは働くね。」

「……頭が良いって言ってもらえる？」



二人の会話は、明らかに知念の話を肯定づけるものだった。
ということは、確実に伊野尾さんの話は嘘になるし光くんの正体も分かった。



「雄也、光を安全な場所に連れて行って。涼介も二人に付いて行って。」

「……知念、俺はここに居る。」



有無を言わせない状況だったけれど、俺は知念の傍を離れようとしなかった。
だけど知念は無理やり俺を引き離す。



「雄也の指示に従って。大丈夫だよ。」

「でも、」

「大丈夫。また明日、この教室で会おう。」




だけどその約束は、叶わなかった。

paint13→←paint11

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す