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ん、と渡されたその箱を恐る恐る開けると、中に入っていたのは、以前あたしが欲しがったピアス。別にねだったとかじゃなくて、欲しいな〜かわいいな〜ってぼそっと呟いたぐらいのやつ。
たった1回、呟いただけのものを覚えてて買ってくれたことが嬉しくて、照れくさそうにぽりぽりと鼻の頭を触る誠也くんに思いっきり抱きつくと、勢いそのままに2人でベッドへ倒れ込んだ。
「ちょ！あぶないて！」
『覚えててくれたん？』
「こないだたまたま見かけてん。そういやA欲しいって言うとったなー思て。ホワイトデー近いしちょうどええかなって」
『あ、そっか。ホワイトデー。……って待って？あたし誠也くんにバレンタインあげれてないで？』
あげようとはしてた。してたけど、お互いちょうど忙しい時期が被ってて、会いに行くのも来てもらうのも難しくて、誠也くんの為に買ったちょっとお高めのチョコは結局自分で食べたのが今年のバレンタインの思い出。
「俺は貰ってへんけど、実家に送ってくれとったやろ？」
『それはほら、日頃の感謝を込めてやん。パパにもママにもいっぱいお世話になってるから』
「おん。Aちゃんええセンスしてるっておかん喜んでた」
『えへへ、ママに喜んで貰えて良かった。でもそれはパパとママ宛やで？誠也くんにはあげれてへんよ？』
「ていうかあれやん、2年やん、ホワイトデーで」
あ、覚えてたんや。
2年目って節目ではあるけど最初に比べてそこまで特別感もないし、今年は誠也くんツアー初日やし。てっきり覚えてないか、覚えててもそんな余裕無いと思ってた。
「……覚えてたんやとか思ったやろ」
『そ、ｿﾝﾅｺﾄﾅｲﾖ、』
「こんな覚えやすい記念日、忘れろって方が無理やろ」
『えへ、それもそっか』
覚えてて、プレゼントまで用意してくれてた事が嬉しくて、倒れ込んだ時に乱れたあたしの前髪を優しい顔して整えてくれる誠也くんが愛しくて。
『……あれ、でも待って、これめちゃくちゃ高くなかったっけ、？』
確かサイトで見た時に思ってた値段の倍ぐらいしてて、それで買うのやめたんやった気がする。
クリスマスとか誕生日とか、なんかのご褒美とか、そういう時まで我慢しよってそっとサイトを閉じた記憶が蘇った。
「ん？」
『あっかん、そうや、この人そうやった、』
あまりにも一緒にいすぎてすっかり忘れてたけど。そういえばおうちえぐい大豪邸のお坊ちゃんなんやった、この人。
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作者名：てと | 作成日時：2023年1月29日 17時
