9. ページ9
.
「誠也くんおかえりなさい。えらい長い一服でしたねぇ」
「あ、わすれてた、」
「え？そんなことある？」
正門に言われて思い出した手に握られた煙草の箱は、部屋を出ていった時と本数が変わることなくそのまま鞄へと戻された。
一服してすぐ戻るはずやったのに、エントランスで震えてる小さな背中がなんかほっとかれへんくて思わず声を掛けてしまった。普段なら絶対やらん行動に自分でもびっくりしたけど、声に出てもうたんはしゃあない。
短い時間の中でクルクル変わる表情にいつしか心を掴まれてしまっていたのは事実で。
でも、だからと言って好きになったんかって言われたら……、それはまだなんとも言えんな。
いろんなAちゃんの表情を思い出していた中に浮かぶひとつの影。あの距離感はどう考えても普通やなかったし、なんで2人が知り合いなんかもわからん。
「あー、あのさ、」
「はい？」
「Aちゃんと、小瀧ってさ、どういう関係なんかとかって、知ってる？」
「ってあの小瀧くんですか？」
「そう。その小瀧」
「Aちゃんと小瀧くんやったら高校の同級生ですよ。3年間おんなじクラスやったって」
「あ、そうやそうや。大吾がそんなこと言うてたわ」
「ふーん。そうなん」
ほんまに？それだけ？それにしてはあの距離は近すぎん？やって小瀧、肩抱いてたで？
「ていうかなんでAちゃん？」
「大晴にも声掛けたらよかったなあ。1時間前ぐらいにAちゃんおったんよ」
「え！？うそ！？なんで！？」
「今日スタジオ一緒やってんて。俺ら撮ってる時にちょこっと挨拶してすぐ帰ったんやけど」
「えーー！！うそやん！！」
「ごめんなあ」
「いや、ええんよ。俺はただのファンやもん。そんな邪な気持ちは抱いたあかん」
「なんやそれ(笑)」
「ていうか誠也くんこそ、小瀧くんがどうしたんです？」
「あ、ほんまや。なんで急に小瀧くん？」
「あ、いや、Aちゃん帰る時に小瀧迎えに来てたから仲ええんかなー思て、」
嘘は言うてない。うん。小瀧が迎えに来てたんも、2人の関係がちょっと気になったんも全部ほんまのことやもんな。
「なんか大吾が言うてたな。あの2人仲良すぎてたまに怖なるって」
「怖なるってなに？」
「んー、なんか共依存？ぽい？みたいな。本人たち全く自覚無いみたいやけど」
「ふーん、共依存…」
それって付き合ってるとか男女の関係とかそんなんよりやばいしめんどくさいんちゃうの。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 808人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：てと | 作成日時：2022年11月21日 23時
