時は満ちた。 【Garry's story】 ページ21
.
駅から続くイチョウ並木を歩きながら、耳にイヤホンを押し込む。
秋晴れの日曜、気分は爽快だ。今日はなんだか、良い事が起こりそうな予感がする。
国立競技場の角から、レッスン帰りと思われる中高生の集団が現れた。
彼らは俺の姿を認識すると、一列に並び直して一斉に頭を下げる。「おつかれさまですっ！」
練習ごくろーさん、と片手を挙げて脇の信号を折れた。
俺レベルになると、道を歩くだけで挨拶されたりする。この一帯は俺の庭だ。
通い慣れた階段を駆け上がり、ウインクをひとつ送ってフロントを通過する。俺レベルになると顔パスだ。
……と言いたいところだが、さすがにそういう訳にはいかないので、受付のお姉さんに回数券を手渡した。
ロッカーの前でスケート靴を取り出していると、そばで休憩中だったお嬢さん方が大変興奮した様子で話しているのが耳に入ってきた。
「あの人、超うまくなかった？ 選手かな」
「顔もイケてたよ。芸能人みたいだった」
急激な悪寒が襲ってきた。
親父の影響で幼少期からスケートを習っていたエリートの俺は、リンクで一般スケーターから「あの人すごい」と羨望の眼差しを向けられることを何よりの生き甲斐としている。今日もあの感覚が味わえる期待にゾクゾクしながら、胸を昂らせてやって来たのだった。
まさか、俺より目立つアイツが来てるんじゃないだろうな。
……まぁ、とりあえず滑ろう。
予感というのは案外当たらないものだ。靴を履き替え、リンクに下りた。
早速、緩急をつけたり後ろ向きに滑ったりと技ありの滑走をしてみたが、周囲の視線はあまり向けられなかった。明らかに、半周先あたりへ注目が集まっている。
目を凝らすと案の定、長身のスケーターが風を切って颯爽と滑っていた。
思いきり顔をしかめる。
スキニーとスケート靴がどちらも黒いせいで境目が分からなくて、あれじゃ体の３分の２脚じゃねえか。
非常に腹が立った俺は、スピードを上げて近付いた。追い越し際、ヤツの嫌がる前髪掻き上げ額全開の刑に処してやろうと思った。
ヤツが突然右を向いたから、気付かれたのかと慌てて速度を緩める。
しかし彼は斜め下に向かって何やらひとことふたこと話すと、満面の笑みであははと笑った。
おや。
首を伸ばしてヤツの隣を見た。珍しい、連れがいるのか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 835人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
真澄(プロフ) - 浬さん» コメントありがとうございます。5年前のいがさくのお話ですね！ちびさくにお兄ちゃんぶるガリさん書いててすごく楽しいので、読んで頂けたら嬉しいです♪ (2021年2月26日 9時) (
レス) id: 0317dce8be (このIDを非表示/違反報告)
浬(プロフ) - 仲直りはチョコの味キュンキュンしました！今回は昔のいがさくのお話ですかね？わくわくします(^ ^) (2021年2月22日 13時) (レス) id: 2a1dda425f (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - 爽さん» コメントありがとうございます。キャンパスライフ早く書きたいのですが、DKたちを卒業させるのももったいなくて悩ましいです(笑) (2021年2月13日 21時) (レス) id: d37291436f (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - 浬さん» お久しぶりです！コメントありがとうございます。雪の降る日はけっこう直感で書いたのですが気に入って頂けて良かったです♪今回のも楽しんでもらえたら嬉しいです！ (2021年2月13日 21時) (レス) id: d37291436f (このIDを非表示/違反報告)
爽 - またまたお久しぶりです。仲直りはチョコいいですね！更新待ってますね。大光君とのキャンパスライフも楽しみです(^^) (2021年2月11日 11時) (レス) id: 5e1c872bd2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：真澄
| 作者ホームページ：https://twitter.com/masumi_chu
作成日時：2021年1月15日 16時
