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休憩時間、彼の座るベンチの前に少女が１人立った。上級者向けのこのクラスに、今月から上がってきた子だった。
「龍斗くん」
彼が顔を上げる。
「あたしね、みんなよりできないから、できるようになりたくて」
「……できるように？」
「龍斗くんがいちばん上手だから、どうしたら上手になれるか教えてほしいの」
彼は無表情のまま少女をじっと見た。
おいおい。
離れたベンチから様子を窺っていた俺は、泡を食って腰を浮かせた。
デリカシー皆無なジコチューお坊ちゃんのことだ。「聞いてる暇あったら練習したら？ 踊るだけじゃん」とか、「僕できない子好きじゃないんだよね」とか、平気で言いかねない。女の子を泣かせるなんて許さんぞ。
間を取り持とうと足を踏み出したところで、想定外に彼がにっこりと少女に笑い掛けたのが目に入ったから、急いで逆戻りした。
「明日、いっしょに練習する？」
聞こえてきた言葉に耳を疑った。
「僕も上手になりたいから、明日も練習にくるんだ」
彼が少女を見上げ、ふわりと優しい声で言った。「いっしょにやる？」
驚いたように彼を見つめた少女の頬が、瞬く間に赤く染まる。人が恋に落ちる瞬間を初めて見た。
どうした作間。お前、いつの間にそんな無自覚に女性を堕とせるようになったんだ。
練習後、私服に着替えてリンクを後にする背中に、とびきり優しい声を掛けた。「さーくちゃん」
足を止めた彼が怖々と振り返る。警戒心マックスの上目遣いで俺を見上げ、ぺこりと小さく頭を下げた。
「腹減ったね。なんか食いに行かね？」
え、とあからさまに嫌そうな表情を浮かべ、さくちゃんは目を逸らした。「……用事あるから、帰る」
ふふん、と俺は財布から取り出した紙切れをひらひら揺らした。「残念だなー。駅前のパンケーキ屋の割引券あるから、一緒に行こうと思ったのに」
「ぱ、ぱんけーき！」大きな瞳が急に輝き、券に手を伸ばす。
俺は券を持つ手を素早く上に挙げた。「仕方ないか。別の子誘って行こ」
「行くっ！ 行くっ！」券に届かないさくちゃんが、腕を伸ばしてぴょんぴょん飛び跳ねる。
「用事あるんだろ？」
「用事もうなくなった！」
揺れる頬を見て呑気に笑っていた俺は、数年後あっけなく身長を抜かされることをまだ知らない。
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真澄(プロフ) - 浬さん» コメントありがとうございます。5年前のいがさくのお話ですね！ちびさくにお兄ちゃんぶるガリさん書いててすごく楽しいので、読んで頂けたら嬉しいです♪ (2021年2月26日 9時) (
レス) id: 0317dce8be (このIDを非表示/違反報告)
浬(プロフ) - 仲直りはチョコの味キュンキュンしました！今回は昔のいがさくのお話ですかね？わくわくします(^ ^) (2021年2月22日 13時) (レス) id: 2a1dda425f (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - 爽さん» コメントありがとうございます。キャンパスライフ早く書きたいのですが、DKたちを卒業させるのももったいなくて悩ましいです(笑) (2021年2月13日 21時) (レス) id: d37291436f (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - 浬さん» お久しぶりです！コメントありがとうございます。雪の降る日はけっこう直感で書いたのですが気に入って頂けて良かったです♪今回のも楽しんでもらえたら嬉しいです！ (2021年2月13日 21時) (レス) id: d37291436f (このIDを非表示/違反報告)
爽 - またまたお久しぶりです。仲直りはチョコいいですね！更新待ってますね。大光君とのキャンパスライフも楽しみです(^^) (2021年2月11日 11時) (レス) id: 5e1c872bd2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：真澄
| 作者ホームページ：https://twitter.com/masumi_chu
作成日時：2021年1月15日 16時
