52 ページ6
数十秒ほどの動画だった。
つい１時間ほど前に通ってきた、高校の最寄り駅が映し出された。
少し手ぶれしながら、ホームの隅に立つ長身の高校生へ徐々にピントが合ってくる。さくちゃんは単語帳を読んでいるようだった。
その時、画面の手前から『あっ、さくちゃんだ！ さくちゃーん！』と元気な大声が聞こえ、同じ制服を着た少年がカメラの横を駆け抜けてさくちゃんのもとに向かう。さくちゃんの口が、『浮所』と動いたのがはっきり分かった。
「この、走ってきた子が弟だよね。……じゃあ、この背の高い子は誰なの？」
私はごくりと１回、唾を飲み込んだ。「……この子は、弟の友達なの」
ふーん、と優斗は言った。
その声が普段の彼からは考えられないくらい冷淡で、私は鳥肌が立つ。
何か言わなければならないと思った。
「……ていうか優斗、何してんの？ これ全部、隠し撮りだよね。 なんでこんなことしたのか分かんないけど……やばくない？」
「ただの弟の友達と、抱き合ったり毎週デートする方がやばいだろ！」
優斗が初めて大きな声を出した。
咄嗟に目を瞑った私に、さらに数枚の写真が投げ付けられる。
いつもの河原で、スイーツを食べているさくちゃんと私の写真だった。
さくちゃんと一緒にいる時の私は、こんなに表情豊かで楽しそうなオーラをまとっているのかと、ぼんやり考える。
体は震えているのに、どこかに冷静な自分がいるのが不思議だった。
優斗の目が潤んでいるのが分かった。
彼はすがるような声で言う。
「A、揺すられてんでしょ？ 何か弱みを握られて、高校生の恋愛の真似事に付き合わされてるんでしょ？」優斗が私の手を取った。「……そうだよね？」
「違う」
どうして優斗がさくちゃんを盗撮していたのか、今にも泣きそうな表情をしているのか、さすがの私にも少しずつ理解できてきた気がした。
それが本当であるならば、今、優斗の手を振り払うことは、絶対にしてはいけないはずだった。
しかし反射的に、私は優斗を払いのけていた。
同時に口から出たのは、強い否定の言葉だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1005人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
真澄(プロフ) - みおさん» 大ファンだなんて嬉しいです！これからも頑張って書いていくのでよろしくお願いします！！ (2022年6月10日 16時) (
レス) id: 1390cae94a (このIDを非表示/違反報告)
みお(プロフ) - 真澄さん、もう大ファンです！odi et amoといい、もう！作風好きすぎます！涙 (2022年6月7日 18時) (レス) @page37 id: a084972b78 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - あーるさん。コメントありがとうございます。どうか優斗の活躍を見届けてあげてください！今後も感想などお待ちしております！ (2020年10月8日 20時) (レス) id: 4d011ee698 (このIDを非表示/違反報告)
あーる - 初コメです！優斗くん、、、なんでいい子なんだろう涙出そうになりました（ ; ; ） (2020年10月7日 23時) (レス) id: f659d4fa7b (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - 乃愛さん。コメントありがとうございます。ここからゆうぴの見せ所になる予定なので、引き続き楽しみに読んで頂けたら嬉しいです！ (2020年10月7日 21時) (レス) id: 4d011ee698 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：真澄
| 作者ホームページ：https://twitter.com/masumi_chu
作成日時：2020年9月12日 11時
