73 ページ27
優斗の部屋に行ったあの日から、私たちの関係性は当然のように変化していた。
もちろんお互い分別のある年ではあるので、社内で会えば挨拶はするし、研修中のグループワークでも普通に仕事の話はした。周囲の誰も、私たちの間に起きたことに気付いていないはずだ。
しかし、それはあくまで、同僚という立場で一緒に仕事をするだけの関係であった。
以前のように、しょうもない愚痴を言い合ったり、社内の噂を面白おかしく笑い合ったりすることは一切なくなり、一緒に飲みに行くなど夢のまた夢だった。
ガリさんは眉を下げて、肩をすくめる。
「あの」私は顔を上げた。「優斗に何か聞いた？」
ガリさんはチョコクロワッサンにかぶりつく。「別に。あいつ泣き上戸だから、なんかひたすら泣いてたよ」
「そっか……」
「でも」ガリさんはカフェナプキンで口元を拭いながら言った。「あいつがAに謝ってること、Aのスーツのボタンをなぜかあいつが持ってること、そしてあいつの落ち込み様を見れば、あいつが刑法176条を犯したであろうことは、だいたい察しが付くよね」
私はガリさんの頭の良さに感心しながら、深くうなだれる。
「……優斗は悪くないの」
「あー、言っちゃった」
ガリさんは苦笑した。「Aのそういうところを優斗は好きになって、Aのそういうところで奴はいま苦しんでるんだろうな」
「どういう意味？」
「そのまんまの意味だけど」
ガリさんは２つめのチョコクロワッサンを手に取りながら言った。「あいつ、ヘタレじゃん。まさか本当にぶちまけちゃうとは思ってなかったわ」
私は少しの間その言葉の意味を考えてから、「……ガリさんは知ってたの？」と遠慮がちに尋ねる。
「あいつがAのこと好きなのは気付いてたけど、なんていうか、高嶺の花的な存在だと思ってたはずなんだよな。Aのこと」
「私、そんなんじゃないよ」と目を逸らしたら、「もちろん。そんなふうに思ってるの、この世であのチャハ野郎だけだよ」との直球が返ってきた。
「だからこそ、あいつが爆発するって相当だと思うんだよね。Aに嫌われることを一番恐れてたはずの、あいつがよ？」
ガリさんは私をじっと見つめた。「A、いったい何したの」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1005人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
真澄(プロフ) - みおさん» 大ファンだなんて嬉しいです！これからも頑張って書いていくのでよろしくお願いします！！ (2022年6月10日 16時) (
レス) id: 1390cae94a (このIDを非表示/違反報告)
みお(プロフ) - 真澄さん、もう大ファンです！odi et amoといい、もう！作風好きすぎます！涙 (2022年6月7日 18時) (レス) @page37 id: a084972b78 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - あーるさん。コメントありがとうございます。どうか優斗の活躍を見届けてあげてください！今後も感想などお待ちしております！ (2020年10月8日 20時) (レス) id: 4d011ee698 (このIDを非表示/違反報告)
あーる - 初コメです！優斗くん、、、なんでいい子なんだろう涙出そうになりました（ ; ; ） (2020年10月7日 23時) (レス) id: f659d4fa7b (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - 乃愛さん。コメントありがとうございます。ここからゆうぴの見せ所になる予定なので、引き続き楽しみに読んで頂けたら嬉しいです！ (2020年10月7日 21時) (レス) id: 4d011ee698 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：真澄
| 作者ホームページ：https://twitter.com/masumi_chu
作成日時：2020年9月12日 11時
