第10番 ページ10
思い出した、初めて見る表情。あんなに顔赤くして、微笑んで。Aをあそこまで可愛く照れさせるなんて、いったい誰なんやろ……。
「永瀬くん?いつまでそうしてるのかな?
大円舞曲すらまだ完成してないのに、ラ・カンパネラなんて弾けるの十年以上先だね?」
「……はい」
この日は、楽譜を見ても全く集中出来ず。普段温厚な先生を、珍しく怒らせてしまったのである。とんだ厄日。
ー「火曜三限?二年五組だよ」
「二年……?そうなんや、ありがと」
翌日。どうしても気になり、俺は友達に火曜三限の体育をどこのクラスがやっているか調べていた。言い方大袈裟やけど。
案外すんなりわかった。まず神宮寺勇太に聞いたところ、お姉さんがその時間は体育らしく。たまに体操着を借りに来ると言う。
と。年上かぁ……。一個上……。
華道部の先輩とか?いや、男子いないって聞いた。あー、どこで知り合ったんや。同い年じゃ、やっぱり子どもすぎるんかな?てか、俺がお子様に見られてる?
四六時中、頭いっぱい。知らない方が良いのに、知りたくなる。
すぐ近くで、友達と談笑してるA。Aに想われてるヤツが、死ぬほど羨ましい。それと同時に、悔しさも滲んだ。
「もしかしたら、Aも」って。何の根拠もないのに、自惚れていたからだ。
ー誰もいない、放課後の音楽室。鍵盤を滑らかに滑る指先。ショパンの華麗なる大円舞曲。暗譜済み。
まだまだテンポは遅いけど。あと三ヶ月もあれば、自分のものに出来そうな気がする。
この日だけは。この日だけは、Aの目にカッコ良く映りたくて。指と指の間が切れようが、どんなにピアノが嫌いになっても、一日も欠かさず練習してきた。
でも、いくら練習していたからって、Aの心にいるのはたった一人で──……
「廉!お待たせ!ごめんね、待たせて」
ガチャッ!と勢いよく開いた分厚いドア。大好きな声と、いつものセリフ。
近いようで、遠い。Aの好きな人は、誰?
「ん、帰ろっか」
愛用の、ネイビーのマフラーを手に取る。何年か前に、Aが誕生日プレゼントでくれたものだ。
鈍く、重く。糸はもつれ始める。
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佐藤るか - ボロッボロに泣きながら読ませていただきました、← これからも楽しみながら読ませていただきます!! (2019年3月9日 19時) (レス) id: 7822559aab (このIDを非表示/違反報告)
れいら(プロフ) - 更新ありがとうございますm(_ _)m廉くんが元の廉くんの戻ってくれたらと願ってしまいます。主人公ちゃんも幸せになりますように。 (2019年2月19日 21時) (レス) id: 26de836531 (このIDを非表示/違反報告)
にかちぃ - 更新楽しみにしています。頑張って下さい (2019年2月19日 21時) (レス) id: bb044d85aa (このIDを非表示/違反報告)
れお。 - 廉くんと仲直りして欲しい…涙 廉くんSide読みたいです!! (2019年2月18日 18時) (レス) id: 80a6625e36 (このIDを非表示/違反報告)
のんこ(プロフ) - 主人公ちゃんと廉くんお互い言葉足らずでモヤモヤしてしまう。廉くんSideの気持ちも知りたくなってしまいます。続きが気になりすぎます! (2019年2月13日 11時) (レス) id: 0d216a52c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:れなさん | 作成日時:2018年12月16日 18時