第29番 ページ29
「ぇ…………」
フローリングに落ちたままのバッグ。廉の視線は、定まらない。ただ、無音の時間が続く。
何で。何で廉がいるの。委員会あるからって。何で。何で。何で。そもそもどうして、家に。ど、して。どうして。……どう、して。今、なの。
「ごめ……帰るわ」
ボソリと呟かれた言葉に。ようやくハッと、我に返った。玄関へ向かう廉の腕を掴む。
「れ、待って、ねぇ違うの、お願い、あのね」
誤解しないで。無理矢理なんだよ。
これだけ、伝えたかったのに。廉は私を見ずに、手を振り払った。バタン!と虚しく閉まるドア。残り香だけが、ふわりと香って。
崩れ落ちた、膝。涙すら、出なかった。
ースマホを見れば、廉から数件電話が入っていた。それから。
「今日返されたプリントない?」
「今から行くわ〜」
と言うメッセージ。ファイルを確認すると、「永瀬廉」と記入されたプリントが紛れ込んでいて。あぁ、返すの忘れてしまっちゃったんだ。だから、家に来たのか。
おまけに鍵を閉めたか記憶が曖昧で。何の返事もしない私を心配して、入ったんだ。
……いつも、通り。接してくれるかな。振り払われた右手。その際引っかかれたのか、血が滲んでいた。
ー「おはよー」
「おはよ〜卒業式の練習いつからだっけー?」
何ら変わらない、一年二組の教室。挨拶がいつものように飛び交い、ガヤガヤと騒がしい。
私は席につくなりプリントを一枚取り出す。そして。
「……これ。持ち帰っちゃって、ごめんね」
ななめ後ろの席──スマホをいじる廉の元へ行き、差し出した。
「あぁ、うん」
引ったくられるように、奪われたプリント。机の中に雑に放ると、またスマホを触り始めた。一切絡まない、視線。
嫌な予感が、した。
この日を境に、廉は私と関わらなくなった。
部活中、音楽室からピアノの音がすることもなくなった。登下校も、いつの間にか一人。当たり前のように隣にいた廉は、いとも簡単にいなくなった。
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佐藤るか - ボロッボロに泣きながら読ませていただきました、← これからも楽しみながら読ませていただきます!! (2019年3月9日 19時) (レス) id: 7822559aab (このIDを非表示/違反報告)
れいら(プロフ) - 更新ありがとうございますm(_ _)m廉くんが元の廉くんの戻ってくれたらと願ってしまいます。主人公ちゃんも幸せになりますように。 (2019年2月19日 21時) (レス) id: 26de836531 (このIDを非表示/違反報告)
にかちぃ - 更新楽しみにしています。頑張って下さい (2019年2月19日 21時) (レス) id: bb044d85aa (このIDを非表示/違反報告)
れお。 - 廉くんと仲直りして欲しい…涙 廉くんSide読みたいです!! (2019年2月18日 18時) (レス) id: 80a6625e36 (このIDを非表示/違反報告)
のんこ(プロフ) - 主人公ちゃんと廉くんお互い言葉足らずでモヤモヤしてしまう。廉くんSideの気持ちも知りたくなってしまいます。続きが気になりすぎます! (2019年2月13日 11時) (レス) id: 0d216a52c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:れなさん | 作成日時:2018年12月16日 18時