第2番 ページ2
ー「あ……」
五階の音楽室から聞こてきた、ショパンのノクターン。ゆったりと流れるようなメロディーに、ふとリンドウを生けていた手が止まった。
「きーしーさーん、最後まで終わらせてね」
「ぁ、はい……」
顧問の先生から注意を受け、慌てて手を動かす。もう飽きるほど聞いている曲なのに。未だに胸にジーンと来る。このノクターンは、廉が最も得意とする曲だ。
私は部活が終わると、相変わらずピアノの音を響かせる音楽室へとダッシュする。ドアノブをゆっくりゆっくり引き中に入ると、本人はピアノに夢中で全く気づかない。
忍び足で近づき、後ろから様子を伺う。黒と白の鍵盤をなめらかに滑る、細い指先。
「わっ!!」
「ぅわ!何やねんおい!びっくりするやろ!!」
大声を出して肩を叩けば、廉も大声を出して驚いた。その様子が面白いから、やっぱり廉のこと驚かすのがやめられない。
「部活終わったん?」
「終わった!帰ろ!」
はいはい、と返事をしながら、廉はピアノのふたを閉めた。こうして毎日のように、二人で音楽室を後にする。
──永瀬廉、高校一年生。小学生からピアノを始め、今は教室で一番の実力を持つほどらしい(本人談)。部活に入らずピアノ一本にする、と言われたときは本当に驚いた。
いて当たり前、な幼なじみだから。振り返れば、私の隣にはいつも廉がいる。
「あ。なぁなぁ、アレ光ってるの星やな?」
「へ……?や、あれ飛行機じゃない……?」
「……マジやん!動いた!」
ローファーを履いて、校門をくぐる。マフラーをきつく巻き、白い息を吐き出しながら空を見上げた。
ふと視線を隣にやれば。すっと通った鼻筋と、キラキラした茶色の瞳。冬の風が、黒髪を揺らした。
……中学三年、辺りから。廉、一気に垢抜けたなぁ。前までちんちくりんだったのに。女の子からは噂の的だし、何だか遠くなった気分。
「ね、三月の発表会何弾くの?」
ふと、今日初めて聞こえた曲のことを思い出して。私は廉に問いかけた。
「ショパンの華麗なる大円舞曲。ムズいねんな、アレ」
とか言いながら。当日誰よりも完璧に、綺麗に弾いてしまうのを私は知っている。だってそれくらい、たくさん努力してるから。
廉の通っているKピアノ教室では、毎年三月に一年の集大成として発表会が開かれるのだ。
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佐藤るか - ボロッボロに泣きながら読ませていただきました、← これからも楽しみながら読ませていただきます!! (2019年3月9日 19時) (レス) id: 7822559aab (このIDを非表示/違反報告)
れいら(プロフ) - 更新ありがとうございますm(_ _)m廉くんが元の廉くんの戻ってくれたらと願ってしまいます。主人公ちゃんも幸せになりますように。 (2019年2月19日 21時) (レス) id: 26de836531 (このIDを非表示/違反報告)
にかちぃ - 更新楽しみにしています。頑張って下さい (2019年2月19日 21時) (レス) id: bb044d85aa (このIDを非表示/違反報告)
れお。 - 廉くんと仲直りして欲しい…涙 廉くんSide読みたいです!! (2019年2月18日 18時) (レス) id: 80a6625e36 (このIDを非表示/違反報告)
のんこ(プロフ) - 主人公ちゃんと廉くんお互い言葉足らずでモヤモヤしてしまう。廉くんSideの気持ちも知りたくなってしまいます。続きが気になりすぎます! (2019年2月13日 11時) (レス) id: 0d216a52c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:れなさん | 作成日時:2018年12月16日 18時