3度目の蒼穹 8 ページ20
.
無事だった2人とは少し話した気がするけど、何を話したかは全く覚えていない。
冥さんが何か言いたげに私たちに話題を降ったところで、この後冥さんが何を言うかを思い出した。そういえば帳のことを完全に忘れていた。まあどうせ五条が夜蛾先生から拳骨くらうだけだからいいか。
「何お前、一人だけ説教から逃れようってワケ？」
高専に戻ってすぐ、自室に戻ろうとした私を五条がそう引き止めた。別にそういうつもりでは無かったのだけれど。なんて言おうにも五条に今の状態をうまく説明できる気がしない。
第一私なんかよりも皆の方が任務で疲れているはずだ。この正体不明のループの事を話せない以上、私がここで疲労や体調不良を言い訳にするのは些か狡いような気がした。
曖昧に笑って、押し切って自室に戻るべきか、彼の言うとおり夜蛾先生のお叱りを受けに行くべきか悩んでいれば、夏油が私を一瞥する。
「A、体調が良くないんだろ？顔色も悪いし、悟の言う事は気にしなくていいから休んでおいで」
「あ、うん……」
ああ、こういう所だな。
懐かしいような感覚が胸いっぱいに、瓶を取りこぼしたように広がる。最近ずっと夏油に感じ続けていた恐怖の内側で、弾けるように温かさが灯る。
夏油と純粋に同期として仲良くしていた時、私は彼のこういう所が好きだなと思っていた。人のことをさりげなく気遣える、些細なことも気付いてくれる。そんな優しいところが。
グッと言葉に詰まった五条が「たく、体調悪いならそう言えよな」とブツブツ悪態をついた。夏油がそれをやんわりと窘める。
「じゃあ私、戻るね。ありがとう、夏油」
「いや、無理させて悪かったね」
この間のこともあったからか、硝子からも「ちゃんと休みなよ」と心配そうに言われる。ありがとう、と返して彼らに背を向けた。
後ろから聞こえる3人の話す声が遠のく。
あの中に、何の不安も心配もなく無邪気に笑って混ざっていた頃が懐かしい。
同じ世界を生きてるのに、その先の出来事を知っているだけでこんなに見え方が違う。私だけ真っ暗闇に確実に沈んでいくような。運命に翻弄されて、その波に飲まれて息を止める。誰にも気付かれず静かに溺れていく。
もうあの頃とは違うという虚しさが、疲れた脳みそに溶け込むように広がった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 701人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - ゆうさん» 続きあります！亀さながらのゆっくり更新ではありますが、今後もお付き合いいただけたら幸いです🤗 (4月13日 17時) (
レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - 続きってないんですか？待ってます (3月20日 22時) (レス) @page12 id: f37b355590 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えりんぎ | 作成日時：2024年1月28日 17時
