Sleep.12 ページ12
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「僕久しぶりにAの運転する車乗りたいなあ」
五条のその言葉に反応する前に景色が変わる。とんだ先はどうやら補助監督の任務用車庫だったらしい。つい先程五条が発した言葉に準ずる場所であることに数秒経って気がつく。
「だから私午後から他の術師の送迎が」
早く終わったならそちらを優先しなければ。ただでさえ補助監督だって人手不足なのだ。
私の穴埋めに伊地知が使われたらどうする。あんなにいつも五条にいじめられて胃痛に悶え苦しみながら仕事をしているのに。これ以上負担を増やしたくない。
「だから別の補助監督にやらせればいいじゃん。この会話さっきもしなかった?」
だというのに。
なんてマイペースな男。人の気苦労に頭を悩ませることなんてなさそうだ。一度くらい他人への思いやりを持って生きて欲しい。
疲労から深いため息をつくが、それすら聞こえていないのか、「ねー早くぅ」と五条が急かす。
何を言っても意味の無いことに気が付き、私がいつも使っている愛車のキーを取り出す。
「うっわせっま。こんなもんか」
助手席に乗り込んできた五条の言葉は丸ごと無視した。車がせまいんじゃなくてお前がデカイんだよ。
「どこまで行くの」
ドライブじゃないんだし。遠いところまでは行けない。呆れつつもそう聞けば、「んーお前の家かなあ」と意味の分からない発言が返ってきた。
「だからこの後仕事があるって……」
「それの件なら僕が他の補助監督で穴埋めしといたから。お前はもう今日仕事ないよ」
五条の口から出た衝撃の言葉に、思わず口をヒクつかせる。何だってそんなこと。頼んでもいないのに。
「最近また寝れてないだろ」
五条が私の方にチラリと視線を向けそう問うてきた。
思わず目を丸める。私が寝れてないなんていつもの事だ。それでも最近は確かに、その『いつも』よりも寝れていない。頭痛や目眩をおこすことも多々あった。
「僕がいるから、少しでも寝てほしい」
ずるい。
無茶苦茶な五条の行動。でもそんな私を労わるような発言を聞いて一番最初に浮かんだのはそんな言葉だった。
目隠し越しでも真剣な眼差しを私に向けているのが分かる。おちゃらけで、意味の分からない行動しかしなくて、今日みたいに私の事を振り回すのに。
「五条がいないと寝れないみたいなの、やめて」
「事実じゃん」
五条の顔が見れなくて、静かに車を発進させて前だけ見る。ハンドルの近くに置かれた置物が、車の振動に合わせて揺れていた。
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もなか - 初コメント失礼いたします!五条がかっこよすぎるし、はぁ・・・私のところにも夜来てほしい。(絶対いい夢見れる) (12月14日 16時) (レス) @page13 id: bed5cc04c4 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - にぃ!さん» †┏┛墓┗┓† (8月12日 21時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)
にぃ! - 神作!グハッ、誰か墓頂戴、 (8月7日 21時) (レス) @page7 id: 71597d68ff (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ | 作成日時:2023年8月4日 19時