高校時代にフラれた相手と同窓会で再会した【松田陣平】

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パチン、と一際大きく響いた線を切る音に、思考が無理矢理現実に引き戻されるような、そんな感覚がした。
ハッとして松田くんの手元を見れば、最後の線が切れて、耳障りなタイマー音も息を潜めるように止まっている。

『終わっ……？』

あんなに長い間怯えていたそれは、もうその危険性を持っていない。それを理解して、力が抜ける。

脱力するがままに体がヘタリと倒れ背中が後ろの壁にぶつかった。


「A」


解体を終えた松田くんが、私の手足の拘束をすぐに解いてくれた。ぽんっと優しい手のひらの温もりが私の頭に乗った。

「よく頑張ったな。無事でよかった……」

サングラスを外して、直に見える瞳に目を奪われる。
優しく細まった瞳が揺れて、私を捉えた。

私の頭を撫でた手が滑るように後頭部に回り、そのまま引き寄せられる。
松田くんのまな板に頬が当たる。煙草の匂いが鼻腔を満たす。

松田くんの匂いだ。高校生の頃にはしなかった、今の松田くんの匂い。


それは、松田くんが確かにあの頃よりも大人になったという証で、高校時代私が好きだった松田くんとはちょっぴり変わってしまっているという証。

昔と違う彼の一面を見るのは寂しい気持ちになるけれど、それよりもっと今の松田くんを知りたいと思う。

私は、松田くんを好きだって思った気持ちに蓋をしようとした。だってそれは持っていてもどうしようも無いもので、ずっと引きずっている不毛な恋だから。

でも私はきっと、高校時代の恋をまだ引きずってるわけじゃないんだ。

だって、確実に松田くんは変わっている。
私が好きだった松田くんより大人になって、私の前にいる。



私は、同窓会で松田くんと再会して、
ちゃんと今の松田くんを、もう一度好きになったんだ。



ああ、私ちゃんとこの人に恋してたんだ……。

その事実は、まだこの恋が続くのかという辛さよりも、もっとずっと、泣きたいほど嬉しいものだ。
この気持ちを誤魔化すなんてもう出来ない。無いことになんて出来ない。

松田くんが好きだ。

これは私の中の変えようのない想いなんだ。


安心感と、ストンと落ちたその気持ちを受け入れられた事にポロリと涙がこぼれる。それに気が付かれたくなくて、私も松田くんの背に手を回した。


『助けに来てくれて、ありがとうっ……』


言えていなかったお礼を言えば、返事の代わりに松田くんの抱きしめる手に僅かに力が篭もった。

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