・ ページ37
.
やっと口から出たその名前は私には呼び慣れないもののはずなのに。
「Aっ！ッここか！」
扉が大きく軋み、ドアノブを何度も回す金属音が鼓膜を揺らす。しかし、鍵がかかっている扉は無情にもその音だけを響かせて一向に開く気配がない。
「クソッ！」
『まつだ、くん』
思わず縛られた手足のまま扉に近づく。この鉄の塊を隔てた向こう側には彼がいる。その事実にどうしようもなく泣きたくなる。
「っA、扉から離れて爆弾も扉から遠ざけろ」
『う、うん』
松田くんの言う通りに、不自由な手足を使ってなるべく爆弾の入った鞄を扉から遠ざけ、自分自身も扉から距離をとる。
「ちゃんと扉から離れたな？」と言う松田くんの問いにコクリと頷き、それでは意味が無いと気がついて、つっかえながらも返事を返す。
直後、大きな音がしたと思えば瞬きのうちにそこにあった扉が消えて、姿を見たいと、助けを願った彼の姿が見える。視界が揺れた。
恐らく松田くんに蹴破られたであろう扉はホコリを舞わせながら私の近くに大きな音をたてて倒れる。
それは、本当に一瞬の出来事で。
助けにきてくれたとか、私の為にとか、自分勝手な感情ばかり浮かんでは消えて。
サングラスの向こうの瞳と目が合うのを確かに感じた。
つり上がった眉が少し下がったのを見て、心配してくれていたのかな、なんてと思う。
それでも彼が優先させなければいけないのは私では無い。厳密に言えば、私を優先させるために、今は私を一番に考えるべきでは無いのだ。
松田くんの視線が私の横にあるカバンにうつる。
ツカツカとそれに歩み寄った彼はサングラスを外し中にある爆弾を睨めつけるように見る。
工具を出し、それを解体し始める彼を見つめる。
冷静だ。
爆弾に慣れているんだろう、きっと。
松田くんは高校の頃から何かの解体とか、そういうものをやたらとしていた。だから松田くんから警察をやっているって聞いた時、きっと爆弾処理班だと思った。
爆弾に慣れたっていい事なんか無いんだろうな。
松田くんみたいな真っ直ぐな人は、いざとなったら爆弾と心中しちゃいそうだ。
淡々と線を切っていくのを、緊張とか恐怖とか、そんなのも忘れて、絶対的な安心感を持って見ていた。
我ながら松田くんのこと信用し過ぎだな。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 632人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
✧︎ - 本当に好きすぎて一気読みしてしまいました…素敵な作品をありがとうございます！！ (4月14日 1時) (
レス) @page50 id: 28351a5556 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - あわさん» はわわわ神作？神作なんて言ってもらえるんですか……？すごく嬉しいです！私の文章力で松田陣平の素晴らしさを伝えきれているのか分かりませんが……笑 更新頑張らせていただきます💪 (2023年4月16日 18時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)
あわ(プロフ) - 素晴らしい…神作すぎる…更新待ってます！ (2023年4月16日 8時) (レス) id: a26e70e8e6 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - ？？？さん» ひぇぇ好きだなんて言って貰えるなんて……ありがたいです！続き書きます！そちらこそ体調に気をつけてくださいね(*´﹀`*) (2023年2月26日 17時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - アリアさん» 本当ですか！？そう言ってもらえるなら喜んで続きを書かせていただきます(^ - ^ )コメントありがとうございます！ (2023年2月26日 17時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えりんぎ | 作成日時：2023年2月22日 17時
