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「…」
「…あの」
「んぉ？」
「大野智さん、ですか？」
「うん」
『にの』さんの紹介で、写真家だという大野さんと知り合った。
どんな人なんだろう…と、ドキドキ半分ワクワク半分で行ったら…。
…何にも喋ってくれなかった。
涼しげな目元と艶やかな唇、細くて長い綺麗な指だけど決して女性的ではない手。
確かに、彼はかっこいい男性、の部類に入ると思う。
けど、さっきから止まらない欠伸に、うとうとと船を漕いでいる姿は…大丈夫なのか、この人、と思わざるを得ない。
それに、話しかけても、「うん」とか「おぉ」とか二文字ばっかり。
…うーん、これは、ハズレかも。
「…さくらいしょーくん、だっけ？」
「は、はい」
全部ひらがなに聞こえた名前。
なんだか気が抜けるような人だ。
「ニノの紹介の子で、」
「はい」
「ニノの恋人ちゃんの親友で、」
「はい」
「すげぇドストライクな好みの顔」
「は、…え？」
パチパチと瞬きを繰り返す。
この人は今何て言った？
「うん、交渉成立だな」
「え…、ちょっ…！」
突然、ガバリと抱き締められる。
「付き合お、しょーくん」
「はぁ！？」
待て待て、冗談じゃない。
俺は付き合う前の片想い期間を楽しみたいだけであって、初っぱなから付き合う気は無い。
「申し訳ないんですけど…俺、片想いしたいだけなんですよね。だから、ごめんなさい」
そう丁重にお断りした…はずなのに、何故か緩まることのない両腕。
「…あの…」
「しょーくんは、刺激を求めてるんだな」
「…え」
「大丈夫、退屈なんてさせないから。それに…」
そう言って俺を見た大野さんの目の、静かな青の中に燃えるような劣情を見た、気がした。
「俺、綺麗なモノは手に入れたい主義なんだよね」
「…お、おの、さん…」
「今逃げたって、ぜってぇ捕まえるから、な？」
大人しく捕まっとけよ。
そう言って口角を上げた大野さんに、今までとは違う何かを感じて。
俺は、捕まえられることにした。
なんだかとっても面白そうだし。
…あ、そういえば。
「彼女、フっとかなきゃ」
「…しょーくん、、」
前途多難。
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作者名：salt_* | 作成日時：2017年8月29日 20時
