ひとつ屋根の下 Part10

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川島side



松倉が中学を卒業したちょうど５年後の春。僕は教員の仕事を辞めた。厳密に言えば続けることが難しくなった。授業中に痛みに襲われることは何度かあったけど、今までよく耐えてきた。



最近は家の中でピアノを弾きながらかゆっくりと流れる時間を過ごしている。僕に残された時間はあと3年。



川島) 松倉はもう20歳を超えたのかなぁ



卒業以来1度もあったことのない生徒。それでも僕の短い教員生活の中で1番思い出のある生徒だ。



＿＿＿＿今注目の新人アーティストです



適当に流していたテレビからそんな声が聞こえる。松倉は夢を叶えることができたのか、ふとそんなことを考えていた。



『こんにちは、松倉海斗です、』



その声が聞こえて自分の中でピタリと時が止まる気がした。聞き覚えのある名前に、当時の面影を残した顔。体が固まったように動かなくてテレビを見つめて涙を流していた。



川島) ....松倉.....ほんとに、松倉だ、



スポットライトに照らされて大きなステージの真ん中で歌う彼が眩しかった。半袖のTシャツに半ズボン。当時の彼とは全く違う格好。それでも奏でるギターの音は優しい彼の音色だった。



'' たくましくなれたかな、僕は輝いてるかな ''



その歌詞の一節が強く頭に残る。僕と当時の彼を繋いでいた小さな音楽室。当時の映像が鮮明に蘇る。



『学生時代の甘酸っぱい恋愛ですか？』


『そうかもしれませんね、』



司会者からの質問に少し照れながら答える松倉。学生時代に恋愛なんてしてなかった癖に。そう思いながらテレビを見つめていた。



松倉が僕のことを覚えているかは分からない。でも、彼の初めてのギターの音色を聞いたのは間違いなく僕だ。そんな優越感に浸りながらテレビの電源を切った。



川島) 夢、叶えられたんだね、



もう人生に悔いはない。彼の卒業を見届けて、彼の歌声を聞いて、たくましく輝く姿を見て安心した。そのままソファーに横になると僕はゆっくり目を閉じた。




＿＿＿＿優しい彼の音色に思いを馳せて



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