第十九話 ページ19
颯汰 視点
彼女を俺の家で看病してからもう三日。
あの時ものすごい怒りの表情で俺を突き飛ばしたのが梓、という彼女の家族だろうか。
彼女は弟みたいなもの、と言っていたけど彼は確実にそうは思っていない。
あの目は叫んでいた。
彼女が好きだ、お前には渡さない、と。
もう、会えないのだろうか。
心のどこかでは気付いているのにどうしても諦めきれなくて、俺は毎晩店の玄関に立ち続けた。
使用人や両親に止められてもやめない。
そんな俺が化け狐に化かされていると心配になったのか、両親はお祓いをしろなんて言ってきたけど断固として断った。
もし彼女の術にかかっているとしても、俺は構わない。
彼女に恋をして、俺は確かに今、幸せなのだから。
満天の星空を見ながら彼女の顔を思い浮かべる。
…名前も知らない相手をひたすら待ち続けてる俺って女々しいかな。
はあ、と俺がため息をついた時だった。
「ねえねえ、そこのお兄ちゃん!」
パタパタと駆けてくる足音が聞こえて、目の前に可愛らしい幼い少女が現れた。
「…どうしたの?もう遅いよ。子供は家に帰りなさい」
「それはお兄ちゃんも同じでしょ。
夜中にお家の前でなにしてるの?」
ちょっと彼女かもしれないと期待したのにな、と内心がっかりしながらそう言うと、もっともな事を言い返されてしまった。
「…お兄ちゃんはね、好きな人を待ってるんだよ。もう二度と会えないかもしれないけど…」
「…そうなんだ。
あ、これ知らないお姉ちゃんからお兄ちゃんにって!」
一瞬悲しい顔をしたように見えたのは気のせいだろうか。
彼女は気のせいだと言うような明るい笑顔でそう言うと、俺に一枚の手紙を渡してきた。
俺はその手紙の相手が彼女だと直感的に感じ、あわてて幼女の手からその手紙を受け取った。
その時触れたその子の指に、やっぱり覚えがある気がしてはまじまじと顔を覗き込むと、
泣きそうな顔で俺を見つめ返した。
そして小さな声でこう言ったのだ。
「さようなら」
気がついたら彼女は風のように目の前から消えていた。
その子が確かにそこにいたという証明は、俺が持っている白い手紙。
ただそれだけだった。
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サボテンの花(プロフ) - 抹茶カステラさん» うわあ〜!ありがとうございます(ノ)゚∀゚(ヾ)この後お話は大きく動きますが、最後まで見守って頂ければ嬉しいです! (2015年2月25日 0時) (レス) id: c8a8a442e9 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶カステラ(プロフ) - 今後の展開が気になります!あの2人のうち1人選べと言われたら、迷います(笑)これからも更新頑張って下さい! (2015年2月25日 0時) (レス) id: db1d54f625 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サボテンの花 | 作成日時:2015年2月19日 3時