第十二話 ページ12
霞む視界の中で、頭の中に思い浮かべていた姿が駆け寄ってくる幻を見た。
ああ、最期に彼の幻覚まで見えてしまうって本当に私どうしちゃったのかしら。
彼は町人をかき分けて私の元へ近づいてくると、強く強く抱きしめてくれた。
なんて、暖かい。
体の奥の奥まで満たされるようなこの感覚。
何年ぶりかしら。
こんなに暖かい気持ちで涙を流すのは。
頬に伝う涙の感覚でようやく理解した。
これは幻覚じゃない。本当に彼が来てくれたのだと。
でも、もう離して。
ここにいたらあなたまで殺されてしまう。
そう思うのに体は動かない。
すると、彼は私の前に立ち塞がって叫んだ。
「彼女を殺すな!!!」
ねえ、どうして?
どうしてこんなただの一匹の化け狐なんかを守ってくれるの?
彼が私の方を向いたのを感じて私は口の動きだけで聞いた。
「どうして?」
すると、彼は切なげに眉を歪めてこう答えた。
「ただ、好きだからですよ」
馬鹿な人。
恋のためにこんなことまでしてしまうなんて。
きっと大店の若旦那か何かなのに、こんな化け狐を守ったんじゃ明日から商売が出来なくなるわよ。
そんな事を思うのに、何故だろう。
こんなにも頬が熱いのは。
「お前も結局この化け狐の仲間なんだろう?!
一緒に殺してやる!!」
その時、彼の目の前の男がそう叫んで刀を抜く音がした。
彼は関係無いわ。殺さないで!
人間なんて皆同じはずなのに心がそう叫ぶ。
すると、ピクリと指先が動いた。
ああ、私まだ動ける。彼を守れる。
ずっと隠していた耳や尻尾が次々と生え、体はムクムクと大きくなった。
フサフサとした毛が全身を覆い、私は伝説の妖狐と同じ姿になる。
尻尾を一振りして声高く叫べば、恐れをなした町人は蜘蛛の子を散らすように皆逃げて行った。
彼は驚いたようにそんな私を見つめている。
そうよ、これが本来の私の姿。
幻滅したでしょう?
あなたが思うような女じゃない。
それなのに。
彼は私を見つめたままこう言った。
「綺麗だ…」
止まっていたはずの涙がもう一度流れ始める。
ねえ、あなたって本当に馬鹿な人ね。
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サボテンの花(プロフ) - 抹茶カステラさん» うわあ〜!ありがとうございます(ノ)゚∀゚(ヾ)この後お話は大きく動きますが、最後まで見守って頂ければ嬉しいです! (2015年2月25日 0時) (レス) id: c8a8a442e9 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶カステラ(プロフ) - 今後の展開が気になります!あの2人のうち1人選べと言われたら、迷います(笑)これからも更新頑張って下さい! (2015年2月25日 0時) (レス) id: db1d54f625 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サボテンの花 | 作成日時:2015年2月19日 3時