cafe and bar MADNESS 2

53 ページ4

隆二さんが歌い終えると
お客さんは途端に歓声を上げた。

みんな隆二さんの歌に喜んでいるのに、
私だけ泣きじゃくってしまう。

すると、ナオさんが私を抱き寄せて
頭を撫でてくれた。



これは勘違いじゃないと思う。

隆二さんは、私に向かって歌ってくれた。

まっすぐな愛の歌。

私は子供で、隆二さんのような
大人の男性に好きになってもらえる訳がないと、
ずっと思っていたのに。





泣いても泣いても涙が止まらなくて
ずっとナオさんにしがみついて泣いていたら、
ふいにナオさんのものじゃない手に肩を抱かれた。

「Aちゃん」と優しく声をかけられて、
それが隆二さんだと気づく。



「連れてってもいいかな」

「大事にしてね」

「もちろん」



隆二さんとナオさんがそうやり取りした後、
体を離された。

私の顔を覗き込んだナオさんが
手で涙を拭ってくれて、
「行っておいで」と優しく言う。



「ナオさん……」

「また今度、一緒に飲もう？」

「はい……ありがとうございます」



また涙が出てきそうになって、
慌ててお辞儀する。

顔を上げると
笑顔の臣さんと健二郎さんが目に入って、
ふたりにも会釈をした。





隆二さんに手を引かれるまま、
マドネスの外へ出る。

どこへ行くのかと思ったら
隆二さんは裏口へ回って、
その横にある階段を登り始めた。



「ここ、家。店の2階にあんの」



そう言った隆二さんが鍵を開け、ドアを開ける。

中に招き入れられたけど、
泣きすぎて頭がぼんやりしていて
この状況についていけない。



「まだ時間大丈夫？」



そう聞かれてスマホを見てみると、
もうタイムリミットが迫ってきている。

「あとちょっと、大丈夫です」と答えると
隆二さんはほっとしたような表情で
靴を脱いで部屋に上がった。

54→←52

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す