cafe and bar MADNESS 2

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「みなさん楽しんでますか？」



隆二さんの問いに、
お客さんが「おー！」と叫ぶ。

すると、隆二さんはうれしそうに笑って頷いた。



「今日は僭越ながら自分、歌おうと思います。
ギターは自分がいつもお世話になってる、
直己さんにお願いしました」



そう言われた直己さんが手を挙げてみせると
歓声が沸き起こる。

直己さんがギターを弾いて、隆二さんが歌う。

まさか隆二さんの歌が聴けるなんて
思ってもみなくて、
テンションが一気に上がった。

誕生日にハッピーバースデーを歌ってくれた
隆二さんは、とても歌がうまかった。

どんな歌を歌ってくれるんだろうと
わくわくしていたら、
「じゃあ、聴いてください」と隆二さんが言い、
みんながしーんとする。



静かになった店内に流れ出した、ギターの音。

弾き語り用にアレンジされているようだったけど、
あまりにも有名な曲だからすぐ分かった。

サム・スミスの
『Stay With Me』。



隆二さんの、甘くて透き通るような歌声が
マイクを通して響き始めた。

あまりにも上手すぎて、
お客さんはみんな聴き惚れて、しんとしている。

だから、ギターの音と
隆二さんの歌声しか聴こえない。

隆二さんの歌がまっすぐ胸に響いて、
涙が出るのを抑えることができなかった。






『Stay with me』と歌う、隆二さん。

そばにいて。

それは、さっき私に言ってくれた言葉。

ふたりきりでカウンターの中にいた時、
隆二さんがくれた言葉。



「歌詞が違う……」



隣にいたナオさんがそう呟いて、気づいた。

隆二さんは、サビの部分を
『This is love it's clear to see』と歌っている。

本来は、否定形なのに。






『そばにいて

俺に必要なのは、君だけだから

これは愛だと、はっきり分かってる

だから、そばにいて』





繰り返しそう歌う隆二さんが、
顔を上げてこちらを見た。

泣いている私を見て、優しく微笑む。

まっすぐ私を見て
また『そばにいて』と歌ってくれた。

涙で隆二さんの姿が見えなくなっても、ずっと。

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