狂王が求めた数式 ページ36
『______零』
ビュウ、と陽の宣言通り一際強い風が吹き付けた。
降谷の指先が陽の服に掠るが、それでも手は宙を掴むだけ。
風に煽られ、重力に従い落ちていく陽。
目を見開いて、此方を見る彼を見て思った。
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____若し、自分が死ぬ時。
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____こんな風に必死になって助けてくれる人はいるのかな。
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____あんな風に、悔しそうな顔をしてくれるのかな。
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陽の体は空に吸い込まれ、降谷の顔が見れなくなった。
最後に見た彼の顔はとても悲しそうだった。
全部、計算していた。
全部、考えていた。
全部、掌の上だった。
降谷が来ることは予想外だったが、それでも逃げ方の答えを見つけ出す数式は陽の脳内で完璧に組み立てられていた。
降谷の目の前で飛び降りる事は余興に過ぎなかった。
だが、この行為で自分の求めていた物が此処まで答えに近くなるとは思わなかった。
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『____どうして、人を殺してはいけないんだい?』
織田作之助が生きていた時、私は聞いたんだ。
彼に____否、彼にこの質問はしていない。
彼ではない、では、誰なのか。
彼ではない、彼。
思い当たる人物は一人しかいないが、この記憶は新しすぎる。
彼が___兄が死んだのは、もっと前だった。
「____お前さんの異能力はな、世界で一番美しいと思ってるんだよ、拙はね。
美しくて、強くて、残酷で、儚い」
銀髪の、色素の抜けてきた髪で彼は言った。
私が聞きたいことの答えではなかった。
私は、知りたい事があった。
その時は知識欲に溺れていて、世界中の書物を漁るように読んでいた。
「賢いお前さんならわかるだろう、どうして人を殺してはいけないかなんて」
『じゃあ、わからない私は馬鹿なのかい?』
「いんや、わからなくてもお前さんは決して馬鹿ではない。
なんせ、拙の妹だからね」
わからない。
わからない。
わからなかった。
人を殺しては駄目な理由も。
兄が、此処まで自分を妹として大事にしてくれる理由も。
どれだけ、異国語を学んで異国の本を読んでも。
どれだけ、世界中の知識を集めて回っても。
《本》の在り処を知っても、わからなかったのだ。
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作者名:鸞宮子 | 作成日時:2020年1月12日 16時