【短編集】【inzm】 (ページ10)

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「また佐藤と隣かよ」

一ヶ月に一度の席替えの時間。
クラスメイトが皆一斉にがたがたと机を移動させる音を響かせる中、隣からはっきりと聞こえたその声にため息をつきたくなった。

『悪かったわね、私も好きで霧野くんの隣に座ってるわけじゃないんだけど』
なんなら他の女の子に代わってもらいたいくらいよ、と声の主をじとりと睨む。
が、目の前の男は気にもとめずに「席の交換はルール違反だぜ、悪いやつ」なんて笑っている。普段そんな真面目じゃないくせにこういう時だけそんなことを言う、全く調子がいいやつ。

別に俺は隣が嫌とは言ってませんけど。とでも言いたげに澄ました顔で隣に座る、一見女子と間違える風貌をしているが…れっきとした男は、霧野蘭丸。
一応小学校からの付き合いだけど、特別仲良しってわけではない。むしろ顔を合わせば憎まれ口を叩き合うほどには、こいつとの関係性は良くない。なんなら、同じ付き合いの長さでいったら神童くんとの方が仲は良好だもの。

でもでも、私が悪いんじゃなくて、向こうが意地の悪いことばかりしてくるのが悪い。クラスの女の子からの視線も怖いし、席が近くなって被害に遭うのは私の方。
霧野くんの隣なんていいなあ、なんてうつつを抜かしている女の子たちに、騙されるなと一言伝えたいくらいには。かわいい顔してやることは小学生男子のそれ。
「あ、佐藤の机の下に蜘蛛いる」『うそ！？』
「うそ」『あ、あんたね…』

この男、本っ当に最悪！

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