【短編集】【inzm】 (ページ6)

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あれから和泉くんの言う、"貴志部くん"について色々と教えてもらった。私と同じ二年生でサッカー部キャプテン、プロも注目の選手、性格は真面目で責任感が強い…ふんふんと聞いていると、「あいつ結構有名だと思うけど」と小言を言われた。同じクラスだった記憶もないし知ってるわけないでしょ、ただでさえこの学校生徒多いのに。そう返すと、そういう問題じゃないとため息をつかれた。なんだこのお坊ちゃん。
とにかくその日は、貴志部くんの好きな物ってなにかな、ていうかどう話しかけよう、待って待ってそもそもクラスは？と終始顔を引き攣らせていた和泉くんに畳み掛けた。

…偶然近くを通りかかってよかった。
サッカー部が管理している倉庫に寄って、さて練習しようと他の部員の所へ戻ろうとした時、女子生徒に勢いよく向かっていくサッカーボールが目に入った。危ない、と咄嗟に声が出た。考えるより先に体が動いて、迫り来るボールを蹴り返す。

「大丈夫？」
オレの後ろで鞄を盾のようにしたまま固まっている彼女に声をかけると、おそるおそるといったように鞄が下ろされ顔が現れる。
最初は何が起きたかわからないといったように目をぱちぱちと瞬かせていたが、オレに気が付くと目を輝かせてこちらを見上げた。
何かを呟いたような気がするけど、近くの運動部特有の声掛けと被ってよく聞こえなかった。
彼女はすぐにはっとして『大丈夫です！』と言うので、間に合ってよかったと頬が緩んだ。
そろそろ練習に戻らないと、総介辺りに小言を言われそうだ。
じゃあ、と彼女に一言断ってからグラウンドの中央へ駆ける。後ろから、ありがとうございました、と聞こえて、ふっと声が漏れる。

まさかこれを機に、後日お礼と言ってクッキーを届けに来た彼女と親睦を深めることになるなんてこの時のオレは考えもしなかった。

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