【短編集】【inzm】 (ページ4)

今日:9 hit、昨日:0 hit、合計:1,487 hit

2-1 ページ4

.

放課後、部活動で賑わう時間。まあ帰宅部の私には関係ないので、うっすらと聴こえる吹奏楽部の演奏曲でも予想しながら校舎を出る。
運動部が活動している中帰るのはやだなあ、いつもは皆が活動する前にぱぱっと帰るけど、今日は日直の仕事がそれを許してはくれなかった。

うわあ、やってるやってる。なるべく目立たないように…野球部やサッカー部が練習しているだだっ広いグラウンドの端を通り抜けていざ校門へ、なんて思っていると、「危ない！」という声が聞こえた。声の方を向くと、なかなかのスピードでサッカーボールが迫ってくる。
避けるなんて指示を咄嗟に出せない私の脳は、とりあえず鞄構えとけ、と言ったのか。私はほぼ反射的にスクールバッグを顔を守るように構えた。

…いつまで経っても衝撃が来ない。「大丈夫？」とすぐ近くで声が聞こえたので、固く瞑っていた目をこじ開けて、スクールバッグを下ろした。一人の男の子がこちらを心配そうに窺っている。

『かっこいい…』
「…え？」

何も考えずに口から出た言葉が、聞こえたのか聞こえていないのか、目の前の彼は目をぱちくりとさせた。
あ、違う、間違えた。
漏れ出た言葉をかき消すように『大丈夫です！』と急いで訂正した。それを聞くと安心したように「そっか、間に合ってよかった」と優しく微笑む彼にちょっとときめいた。嘘、かなりときめいた。

じゃあ、練習に戻るから、と軽くぺこっと頭を下げてサッカー部の方へ戻っていく彼に、ちょっと声を張り上げてお礼を言った。随分と紳士な人だったな、私も早く帰ろう。

.