【短編集】【inzm】 (ページ11)

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「なあ、消しゴム忘れたんだけど貸してくんね？」
「わり！教科書見せて！」
「それ新発売のやつ？一口くれよ」

隣の席の霧野くんは、いつも事ある毎に絡んでくる。忘れ物をした時なんかは友達に借りに行くこともせず、手頃なのか隣の席の私を頼り、今なんかは購買の新商品を食べようとしている私に一口ねだってきた。目敏いやつ。

よく彼と一緒にいる神童くんが「霧野、もう少し遠慮した方が...」と私に申し訳なさそうに眉を下げるもんだから、神童くんを安心させるために仕方なく『気にしないで』と笑って受け入れているけど！神童くんは何も悪くないから！

心の底で盛大なため息をつきながら、手に持っていたパンを出来うる限り小さく小さくちぎる。こちらに差し出していた霧野くんの手の上にそっと落とす。
『はい、一口』
「...これ、一口じゃなくて一欠片じゃね？」
『文句あるなら食べなくていいわよ』
予想通り文句を垂れる霧野くんをよそ目に、あー、と口を開けてパンをむかえ____
ようとした時、パンを持っていた手が横からぐいと引かれる。
ぱくりと一口。「ごちそうさま」と爽やかな笑顔。一口分齧られたパンを持ったまま、わなわなと震える私を見て、元凶の男は心底楽しそうに目を細めていた。

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