【短編集】【inzm】 (ページ2)

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「佐久間はいるだろうか？そろそろ練習の時間だが…」
「すみません、鬼道さん。今行きます」

放課後の賑やかな中でも、彼の声はよく通る。いや、もしかしたら周りがちょっと静かになっただけかも。廊下から佐久間に声をかける鬼道くんをちらりと見やって、すぐ手元の参考書に目線を戻す。隣の男はさっきまでちんたらしていたのに、鬼道くんが来た途端打って変わってぱぱっと準備を済ませた。
じゃあな、と律儀に挨拶をしてから鬼道くんの元へ向かう佐久間に、顔を上げてひらりと手を振る。鬼道くん、いつもあいつを迎えに来るなんて大変だなあ、なんて思いながら見送っていると、ふと彼と目が合った気がする。ゴーグル越しだし、ろくに話したこともないから多分気のせいだと思うけど。

確かに私は朝に強くない。でもこの煮え切らない気持ちは眠気からくる苛立ちとか、寝坊して朝ご飯を食べ損ねただとか、そんなことが原因ではなくて。
ガタリと椅子が引かれる音が隣から聞こえてそちらを向くと、今は忌々しく思う顔。よう、なんてはいつもと変わらず涼しげに挨拶をする佐久間に、私は返事をせずじっとりと睨むだけだった。
「な、なんだよ…今日は随分と機嫌が悪いな？」
『原因はわかってるんじゃないの、朝から学校中、その話題で持ち切りじゃない』
やっぱり思い当たる節があるのか、佐久間はうっと唸ると、観念したように俯いて長く息を吐いた。
私が登校してから、嫌でも耳に入ってくる「帝国が雷門中に負けた」という話題。正確には、練習試合を棄権した、とのことだけど、私がぶうたれているのはそんなことではない。

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