できない。 (ページ23)

今日:4 hit、昨日:1 hit、合計:20,711 hit

. ページ23

中1の夏、私はひとりぼっちになった。

親が離婚して、お母さんの実家に引っ越した小5の私は自分はこの状況を理解できていると思い込んでいた。

浮気した父親のことは少しも口に出さないし、連想させる言葉も行事も避けた。
私の存在が負担にならないように努力して、いい子であり続けた。

それほどお母さんが大好きで、2人で生きていこうとしてくれたことが嬉しくて、
私はずっと、強い人間になろうとしていた。

それなのに、
ある朝
フラッと出て行ったまま帰ってこなかったお母さんは発見された時にはもう二度と目を覚まさなかった。

裏切られたんだ。

お母さんは私と生きていくことよりも自分が楽になることを選択したんだ。

「嘘つき！！」

お母さんが微笑む写真立てにどれだけ酷い言葉を吐いても、何が変わるわけでもないのに

お葬式の中飛び出した私は、制服姿のままお母さんと数回歩いたことのある道を駆け出す。

どうしておいていくの
何も知らない、居場所のないこの地にどうして捨てたの
ねえ、何も分からないの

お母さんがいなきゃ、私は、どうすれば

汗だくになって、気づけばお母さんが見つかった山の入り口に足をかけていた。
見上げただけでもわかる、大人でも登るのが大変そうな急斜面を睨む。

置いていかないで
捨てないで
もっともっといい子になるから
ねえ、

だから、

「危ねえぞ」

1人だと思っていた空間に入り込んできたのは、くたびれた野球帽に暑苦しいユニフォーム姿。
まさに部活帰りの格好をした男の子がいた。

「そこは、1人で行くのはマジでやめとけって母ちゃんが…」

私の涙に気づいたのか、その先の言葉を飲み込んだ。

「だったら！どうして！
お母さんだって危険だってわかってたはずなのに！
死んじゃうって、わかってたはずなのに！

ずっと2人で頑張っていこう…って
頑張ろうねって約束した！

お母さんと2人で私は、ずっと、
私は、…。」

木の葉が騒つく木々の中にしゃがみ込んだ私と蝉のなきごえだけが響く

近づいた影がぎこちなく、私に被さって
汚れだらけの靴が目の前で止まった。

「ひとりは嫌だ…」

ふと溢れた本音が誰かを縛っていくことになるなんて、

この頃の私は想像すらできなかった。