あなたを手放すことができない ページ22
「いわげん、おはよ〜」
「…」
「ちょっと！何で無視するの！」
「1日中呼ばれたら怒る気失せる」
「…私そんなに呼んでた？」
どうしてスーツ着て働いてるんだろうってくらい可愛いすぎる、いわげんこと岩橋玄樹に出勤早々ダル絡みをする。
そこらへんの女より顔も仕草も可愛いのがちょっと悔しい。
「昨日はどうだった？」
「ん？」
「あの人」
「…別にどうってことない、かな？
ていうかそもそも断っちゃったし」
あの人というのは上司に勧められて、「そういう関係」を前提に知り合った人だ。
上司に紹介ってそんな古い風習がまだ存在してたことに少し引いたけど、ここ10年色恋沙汰が全くないのだからなんとも言えない。
そうやって紹介された、別部署の田中さんは普通にいい人だけど、恋愛対象にはどう頑張っても見れなかった。
「嫌ならその話自体断れば？」
「そうなんだけど…」
「Aのは優しさじゃなくて、逃げてるだけにしか見えない」
興味なさげにデスクに向かって痛いところを突いてくるくせに、毎回気にかけてくれるから、いわげんは何だかんだ優しい。
叱ってくれる人が近くにいることが唯一の救いだなとも思う。
「Aさん1番にお電話です」
「あ、はい！」
…仕事の時くらい考えたく無いよ。
「2人して馬鹿みたい」
「2人？」
「…早く電話でたら」
不機嫌そうに呟いたいわげんの横顔を見つつ受話器を手に取った。
「はい、お電話代わりま…」
「消えろ」
耳に当てた受話器の向こうから聞こえる声に胸がグッと押し付けられたような感覚に陥る
急に温度をなくした体とは反対に目の奥が焼けるようにあつい
押し込めてた記憶がグルグルと私の頭の中をかき乱す。
“危ねえぞ”
“落ちんなよ！”
“A”
暖かくて甘くて、くすぐったくて、幸せな
“…ひとりは嫌だ”
“先輩の邪魔をしないでください”
“いや！来ないで！”
それでいて、不安定な上にいつまでも孤独で苦すぎる
まだ何も知らなかった
そんな
18歳の思い出
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 142人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆいまる | 作成日時：2019年3月2日 20時
