できない。 (ページ19)

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コンコン

面会時間は終わったはずなのに、真っ白な扉から柔らかなノック音が聞こえた。

今までの客人はこんなことはしない。

「…はい」

意を決して、扉の前に立っているであろう人にむけて声をかける。

俺の返事をちゃんと響き渡ってから数秒後、ゆっくりと開いた扉からひょっこり姿を現したのはあの子。

それと、もう1人の人影。

「なんか君に話があるらしくて病室まで連れて来たけど、見つかったらマジで怒られるから気をつけてね～」

あの岩橋とかいう男だった。

岩橋さんは女の子に目線で合図してすぐに去っていった。

静まり返る室内。

「えっと…どうかした？」

思わずこちらから声をかけるも入り口付近で固まったまま動かない。

「…」

「…」

「とり、すき？」

それが鳥のことだと気がつくのにしばらく時間がかかってしまった。

「うん、好きだよ」

鳥の名前を数種類知ってるくらいだけど、そう答えた。

「雲は？」

「好きだよ」

「じゃあ、じゃあ雨は！？雪は！？かみな…」

「しー」

好きだと言うと女の子の目がキラキラしだして、そろそろ声が室内から漏れることが心配になったのでジェスチャー付きで静まってもらう。

すると、とっさに口を両手で抑えた隙間から小さな声が聞こえる。

「私はね、全部好きなの。
空にあるもの全部好き」

そう言ってクスクス笑いだす彼女のどこがおかしいのか分からなかったけど、もっと話したいと思った

「こっちおいで」

特に何も考えないまま、裸足で寒そうだった彼女を布団の中に招き入れた。

そうやって僕らはずっと夜空を見上げながら、語り合っていた。

ずっとこのまま時間が止まってしまえばいい。