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あの日から面会や仕事の話をしている時以外はあの子のそばにいるようになった。
それでも日常に戻り慰めとも励ましとも捉えられる言葉をかけられる俺もまた、素人だった自分に戻れなかった。
もう手遅れだ
染まってしまった
そんな俺とあの子が一緒にいるのを周りの大人も入院患者も、好奇心とかいろいろな目で見てくるがそれももう気にならない。
「〜♪」
あの子は俺の存在に気づいていないのか、どうでもいいのか隣にいても呑気に歌っている。
「バカの歌？」
「これは、あほの歌」
だけど話しかけると必ず答えてくれる。
彼女はオリジナルの変な歌しか歌わない。
それも、全部バカとかあほとかそんな曲名
単調なリズムなだけあって覚えやすいけど、バカの歌とあほの歌は似すぎててよく間違える。
「俺、まぬけの歌が1番好きだな」
ふと、思いついたことを言うと鼻唄がピタリと止んだ。
「君に歌は似合わないね」
「え？」
いつものように俺が理解できないうちに去っていくのかと思ったら、目を逸らさずにじっと佇んでいた。
こんなに視線を交わすのも初めてだ。
数十秒後、いつものように背を向けた
似合わない、ね。
一応これでも毎日マイクを握る生活を送っていたのにな
そんなことを言われても俺の中に困惑や怒りといった感情がまったくないのは、見透かされたという奇妙さが勝ったからだ。
友達からバンドに誘われた時は歌や音楽さえも興味がなかった。
歌詞とメロディー通りに口を動かしただけでファンは興奮したり涙を流したりする。
初めはそれが少し気味が悪かった。
それなのに
喉が使えなくなることを知らされた時、
自分が酷く絶望していることに気がついた
だけどそんな気持ちに目をつむり治療も努力もせず、いろんなものから逃げてきた俺なんかに歌が似合うわけがない。
俺がいくらそう思っても地位を守ることに必死な大人たちはこれから何度も卑怯な策を立てて、俺を絶対に逃がさない
俺はもう、一生飛ぶことはできないんだ
今日でこの小さな幸せの中に居られなくなる。
さようなら、
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作者名：ゆいまる | 作成日時：2019年3月2日 20時
