できない。 (ページ2)

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目の前にある物体を睨みつける。

フライパンが温まるのを待っている間に今日のために少しだけ奮発して買ったお肉に切り込みを入れていると、電子レンジが加熱を終えた音を鳴らす。
そろそろ麺の準備もしておこう。

火の通りにくい野菜はレンジのおかげで予想通りのしなり具合で、後は炒めて最近お気に入りの調味料を加えてしまえばこちらのものだ。

最高すぎる食材たち

効率的な調理手順

そして長年の成果であるこの手さばき。

我ながら今日も完ぺ…

「あんたは料理人にでも転職するんだっけ？」

背後から前菜をつまみ食いしている友人が呆れたように問いかけてきた。

「ただの趣味だってー。
それに、一人暮らしなんだから当たり前でしょ！」

「今の男には食べさせたことないくせによく言うわ」

「それは、だって…」

私の言い訳もさらさら聞く気がないようでビール片手にまたリビングへと帰っていった。

しょうがないじゃん。

そう心の中で呟いてパスタ麺を棚から取り出す。

こうするしかなかったのだから。

＿＿＿＿＿＿

あれは、付き合ってから初めて紫耀が体調を崩してお家にお見舞いに行った日。
入社当時から想いを寄せていた彼の彼女になれて浮かれていた私は、得意の料理で支えになれる日がやっと来た…！とさらに浮き足立っていた。

病人がいるのにもかかわらず喜びの気持ちが芽生えてしまったことにきっとバチが当たったんだ。

買ってきた食材を冷蔵庫の中に入れておこうと扉を開いた私の目に映ったのは、一人暮らしの男性にしては珍しい、ラップで覆われた大量のお皿。

それもサイズもデザインも中の料理もバラバラで冷蔵庫の中で所狭しと並べられていた。

料理、するとは聞いたことないんだけどな…。

ポテトサラダ、野菜炒め、焼きそば、チャーハン、スープ、ハンバーグ、チキン南蛮、カレー、とんかつ、肉じゃが。

これだけでいったい何日分もつんだ、とツッコミながら静かに扉を閉める。

元カノ？
いや、短期間でどれだけ取り替えてんのよ。

…私以外にもたくさん、そういうことをする人がいるとしたら。
そう考えると胸がザワザワした。

結局勇気が出なかった臆病な私はレトルトのおかゆを出して馬鹿げた嘘をついた。

そして、その日から私は彼の家の冷蔵庫には触れていない。