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第10話:キザな瞳泥棒 ページ10

「ちょっと押さないでよ!」

「しょうがねーだろ!火事でもう火がすぐそこまで来てんだよ!」

「なんでったってこんな時に…怪盗キッドはあと10分もしないうちに来ちまうぞ!」

人が荒波のように出口へと押し寄せる。今まで静かだった美術館がいきなり火の海に包まれたら混乱するのも無理はない。先程誰かが言っていた通り、怪盗キッドが来ると言うのに火事になるなんて可笑(おか)しいと思わざるを得ない。怪盗キッドが火を付けたとは思いにくい、自分まで被害にあったらたまったものではないだろう。

では誰が何の為に、そう考えているうちにいつの間にか私は出口から遠ざかっていた。きっと人の波に押されて逆流してしまったのだろう。

「どうしよ…もう、火に囲まれちゃったよ…」

辺りに見えるのは絶望だけだった。真っ赤に燃え盛る火が、まるで袋の鼠となった私を嘲笑うかのように見えた。とにかく屈んで、成る()く煙を吸わないようにしなければ。そうは言っても煙は(またた)く間に広がり続ける。ちょっと吸っただけでも一酸化炭素中毒を起こしてしまいそうだ。
目眩(めまい)がしたその瞬間、視界は白く染った。

「…!怪盗キッ」

「シー、喋らないで」

そう言って怪盗キッドは人差し指を私の唇に()てがう。喋ったら(おの)ずと空気を取り込む、つまり中毒死してしまう可能性があるので言葉を遮ってまで私を止めたという事か。なんて紳士な男だ。

「危ないですから、しっかり掴まっててくださいね…!」

「っ!ちょっ…!」

彼は勢い良く窓へ向かって駆け出す。何をする気だ、ここは13階だぞ、と怒鳴ってやりたいくらいだったが彼の事だ、きっと何か計画があるに決まっている。大人しく彼に従う方がよっぽど賢い。

予想通り彼は窓を突き破り、ハンググライダーで群青色の空を撫でるかのように飛び回る。
チラリと見える彼の瞳はこの夜空よりも美しくて、思わず私は目を奪われた。

第11話:悪魔の到来→←第9話:声の音色



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作者名:めいゆえ | 作成日時:2022年5月15日 23時

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