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四十八 ページ6

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薄暗い黄昏時にザクリザクリと低い音が
不規則に校舎裏から響いていた。

徐に歩み寄り近付くに連れ大きくなってゆく
音と共に、辺り一面穴という穴で囲まれる。

その中の一つから何度も留めなく
土が外へ放り出されていた。
ザクリザクリ、と響いていた土を掘り起こす音が
途端にピタリと止む。

彼は汚れた頭巾を首から滑り下ろした。

上の方で団子状に束ねられた灰色の癖毛からは
幾つか収まり切らなかった束が飛び出し
肌に張り付いている。


「だれ?」


嗚呼邪魔だと言いたげに彼は頭上から覗く
丸い空を見上げた。

「ねえ、誰?」ともう一度問い掛ける。
其処に誰かがいることは確実だ。然し
月明かりの逆光の所為でその姿を確認
することは難しかった。

だが、同室でも委員会の先輩でも先生でも
よく髪を弄ってくる年上の同級生でも
ないことは間違いない。

彼は一人の人間を一人として認識しない類の
人種だが、一度名前を覚えるくらいした者は
絶対に忘れないし間違えないのだ。


「徐々長屋に戻る時間ではありませんか?」

「あー....、」


カシカシと頭皮を掻き、視線を流す。

地上から穴の中へ垂れる緑髪が一瞬
月光に照らされ煌めいて見えた。


「夕餉の時間ですよ、貴方の友達もきっと探してる」

「........そーかもしれませんねぇ」


狭い空間の中、間延びした声が大きく谺響する。

一応 “友達” の部分は否定しない辺りに
喜八郎なりの人徳が見え隠れしていた。


「まあでも、その友達が迎えに来るまでは
此処に居ても大丈夫でしょう」


記憶を探ると、確か休暇前に委員会で先輩と
話した際、日常会話の端っこに “フジ” と言う
名前が出てきたことをふと思い出した。

仙蔵はその人物について深くは言及していなかった為
根拠と呼べるものは何も無いがなんとなく
今自分が言葉を交わしている人こそが
フジなのではないかと彼は考える。

闇の中に猫の目の如く瑠璃色の光が淡く輝いて見える。

普通なら異国を思わせる色がその純日本人顔の
人物には何故かよく馴染んでいるように感じた。


「私、これでも生活指導なんですよ」

「へえ、今知りました」


「そう」という言葉を最後に、空を塞ぐものが
無くなり視界が月光により少し明るくなる。

見上げると既に彼女の姿は消えていたが
藤の芳香だけは其処に残っていた。


「忍者じゃないんですか」


思ったことをそのまま口に出す。

けれど返事が返ってくることは無かったという。




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作者名: | 作成日時:2017年2月28日 22時

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