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が、実際Aを見やってみると
明らかに怪訝な顔をしている。
土井の冗談は伝わらなかったようだ。
まあ、それもそうかもしれないと
先程考えたことが嘘のように思い直す。
敏感な話題を笑い話に使われたらそんな顔も
したくはなるかもしれない。まあ、先に冗談を
仕掛けたのはAの方なのだが。
「あー...ともかく、じゃな」
途端に漂った気まずい雰囲気を掻き消すように
大川は咳払いを一つ込んだ。
一瞬緩んだ表情を締め直し、二人は徐に視線を
同じ場所へ向ける。
「A、主の要望はよくわかった。許可しよう」
彼女はらしくない程に目を大きく見開いた。
「よろしいのですか」
「仕方なかろう。...然し依然として手出しは
許さぬぞ、それが条件じゃ。...半助、」
はい、と頷いた姿を横目に確認し、老耄は微笑する。
何処か柔らかい雰囲気を放つ目尻の辺りに
幾つか食い込んだ皺がゆるりと溶けた。
「お主は学園に残っていつも通り授業をしなさい。
そしてもしものときは」
「はい。生徒たちを命に掛けて守ります」
「...ああ、頼んだぞ」
忍でなければ聞こえない程に小さく
「ありがとうございます」と呟いた彼女に向けて
二人がふと微笑んだそのとき、西日がすうと
庵に差し込んだ。
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作者名:菫 | 作成日時:2017年2月28日 22時