もしもの話【地/縛/少/年/花/子/く/ん】 (ページ38)

今日:6 hit、昨日:0 hit、合計:25,724 hit

八尋ページ38

鬱蒼と生い茂っていた木は、
ここだけ綺麗に切り抜かれている。
まるで最初からなかったように。
俺が、小さい時のままだ。
良かった、変わっていなくて、と俺は安堵の息を吐いた。

「ココ、特等席」

暗がりでも、ヤシロの頬が染まっているのが見て取れる。
この神社は、花火を見るのには、うってつけのスポット。
ここは夜になると真っ暗になるため、あまり人も近づかない。
こんなにいい席があるのに、損してるよね。

『花火開始をお伝えします。花火開始をお伝えします』

俺達はそこにあった、ベンチに腰を下ろした。
そして刹那、光が線を描いて、花が咲いた。
花火とは昔の人はいい名前を付けたなぁ。と感心する。
花が咲く度に、ヤシロの顔が光に照らされ、浮かび上がる。
その表情は、何だか艶っぽい。

「綺麗……」

恐らく無意識に、ヤシロの口はその言葉を紡いだ。
繋がれた体温は上昇していく。
色とりどりの花が咲き、散る。
そんな事を繰り返している内に、今までで1番大きな花火が上がった。
もう、そろそろクライマックスだろうか。

「俺ね、今日ヤシロと来れて良かった」

彼女は目を奪われていたものから、顔を逸らし、
私も。と笑った。

あ、花が咲いた。