あまね ページ11
「あ、これ残しといたから」
と、あのドーナツを渡した。
すると、柚木くんの顔は輝く。
感情を表に出すタイプなのだろう。
柚木君とは正反対だな。
「まじでー！ありがとうあまねダイスキ」
と、回した手のせいで、近くなっていた顔を
柚木君の頬に擦り寄せた。
柚木君の顔には呆れが浮かんでいる。
「ありがとう。つかさ宿題でもやったら？」
と言うとはっと思い出したように
「そーだね！ばいばい」
と扉の奥へ消えていった。
「ごめんね。騒がしくて。
あれが通常運転なんだよね」
と柚木君が零したので、
私は苦笑いした。
「……柚木君が二人いるから、さ」
呼びにくい、というのが本音だ。
この文脈で察して欲しいものだが。
柚木君だって、私がどちらを呼んでいるか
混乱したりしないのだろうか。
「ん？」
察してもらえなかったようだ。
柚木君は、以外にどうでもよかったりするのだろうか。
まあ、ただの自己満足。
「あまねくんって呼ぶね」
と言うと、くひ。と笑った。
高等部に入っての数ヶ月で、分かったことがある。
「じゃー俺はヤシロかな。
寧々はまだ早いと思う」
頬を少し染めて笑った。
あまねくんの笑い方は、特徴的だ。
人懐っこいようで、悲しげな。
「まだって……
そういや私も宿題やんないとな」
いつか寧々と呼んでくれる時が来るのだろうか。
まあ、そんな日はいつまでも来ないだろう。
それより、今日は数学の課題が大量に出された。
今日から取り掛からないと厳しいだろう。
「待って、帰らないで」
私の制服の裾を掴んだ。
一瞬遅れてその言葉が脳に伝達される。
あまねくんは、私のそれと同時に血の気が引いたようになった。
「ここで宿題して行きなよ。
ちょっとなら教えられるし」
それを誤魔化すよう、
ドーナツをもうひとつかじって、机へと促した。
あまねくんって頭良かったっけ？
まあいいや。
「お言葉に甘えて」
すとんと腰を落とした。
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