心得28つ目《夢のこと》 ページ34
暗い部屋の中で少年が目を覚ました。
目の前には何もいない。周りにあるのは闇と血生臭さ。目を二度瞬かせて、動こうとした。自分の手が鎖で繋がれていたことに気づいて、軽く動かすも外れる気配は全くない。
そして、ハッとしたように周りを再度見渡した。
泣きそうな顔になって、暴れ始める。
「ない、ないっ、何処なの!?!?」
その声に気づいて誰かが部屋に入ってきた。
ひっ、と小さく悲鳴をこぼした男は小泉だった。書類を片手に抱えたまま恐る恐る部屋に入ってくる。
しきりに、ない、ないと繰り返す少年に対してかける言葉を探しながら。
「どう、したんですか……?」
「………お兄さん…」
少年がギョロリとした目を小泉に向けた。
その瞳から逃げることは並大抵の人間ではできやしないだろう。動けなかった小泉もまたそうであるように。
人間にもその他のものにも見慣れているはずの彼はその少年の瞳に恐怖した。
人見知りであるものとは違う背筋が凍るようなおぞましさだ。
「お人形、しらない?」
「ぇ……っ」
「僕の、大切なお人形なんだ。しらない?」
少年に怖気付いてしまった小泉が後ずさる。
階段を一段一段這っていく。振り向こうとすればあの瞳が恐怖を煽り進み無くなってしまいそうだった。少年の声は届かない。
「ネェ、シラナイ?」
その声に小泉はとうとう泣き出した。
大の大人が涙を流した。この少年は人間だ。人間であるはずなのに何故こうも人間らしさがないのだろう。怖い。
人間よりも恐ろしく、その他のもののように薄気味悪い。少年の実態がわからない。
「ひっ、ぁ、ごめん、なさ」
「返して」
少年が鎖の腕を鳴らす。
自分の腕が力任せに振り回され壁に当たろうとも、それで血が流れようとも、返してと繰り返しながら盲目的にその人形を求める。
あるいは人形ではなく人形を持って笑っている自分の姿か、安定と平穏のままに闇を赴く誰かの姿か。依存の、眼差しが少年には存在していた。
「返して、返して返して返して返して、返せぇぇっ!!!」
少年の雄叫びは部屋に響いた。走ってくる足音が近づいてくる。小泉は言葉少なに逃げ出した。
少年は涙をひとしずく流して静かな部屋に呟いた。
「ごめんなさい。お母さん」
その声を聞こうとするものはいない。
少年は孤独だった。
今までよりもずっと孤独になってしまった。
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しぇるふぃあ。 - すみません、「聖バレンタイン日」が「生バレンタイン日」になってます…!小泉幹部すごく好みです、更新応援してます!! (2018年3月21日 12時) (レス) id: 2fca820d76 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃら - 面白いです!頑張って下さい! (2018年3月11日 12時) (レス) id: b7f29ff674 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - かれんさん» 今回の話の題名では、夢主さんが最年長幹部なのでそれをそのまま題名にさせてもらっています!太宰さんは確かに最年少幹部ですけどね! (2018年2月23日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
かれん(プロフ) - 下のコメントに「最年長幹部では?」とありますが、正しくは「最年少幹部」なのでは?細かいところすみません、お話、最高に面白かったです! (2018年2月23日 21時) (レス) id: bd11a80ca1 (このIDを非表示/違反報告)
hi - 凄く楽しかったですこれからも更新頑張ってください (2018年2月8日 17時) (レス) id: 8a1cd5ab5f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2018年1月27日 19時