心得25つ目《謝罪のこと》 ページ30
『前に、喧嘩は年相応で良いとは言った。
だが、場所と時間を考えろ。
子供がいるなかで喧嘩なんてするもんじゃない』
永井幹部が怖い顔で言った。
中也と私は二人揃って、口を閉ざした。
単に怖かったからではない。いつも笑っている人の本当の怒りを目の当たりにして殺意にも似た気を感じたからだ。
瞬間的に悟った。
私たちはこの人に勝てない。
異能を持たないこの人に、経験も実力も頭脳もきっと敵わない。そう思わせてしまうほどの一言だった。
「す、すみません」
「………」
中也はすぐに謝ったが私は謝れなかった。
プライドがすこしだけ邪魔をしていたのだ。私のないに等しいプライドがすこしだけ立ち往生していた。永井幹部が、早く謝りなさい、と告げる。謝りたくない、なんていう子供のような考えが浮かんでしまう。
「……ご、ごめん…」
『私じゃない。謝るのはこっち』
芥川君の前に立たされてすこしだけ沈黙する。
芥川君は私を見上げ、何かを考えるような表情をした。私が謝るのを待っているのか、策略か、嫌なことしか考えてないような気がする。
だが、永井幹部の目痛くて、目をそらして小さく、謝った。
「…ご、ごめん……なさい」
「…………」
芥川君からの返事もあざわらいも聞こえないのでそっと見て見ると、耳を塞いでいた。
両手で耳を押さえ、聞こえないようにしていた。チラリと見上げた瞳と目があった。
黒ずんだ瞳が似ている。その瞳が何度か瞬かれた。
「謝らないでください。
元はと言えば僕が力不足なのが原因。太宰さんが僕に謝る必要なぞありません」
咳を何度かして、口元を押さえた。
くの字に曲がった体にすこしだけ体が動きそうなのを自分の苦い何かが抑えた。
それに、と芥川君が続ける。
「それに、もしここで謝られたら、僕は……後悔する気がします」
「後悔……?」
「ここで、謝らないでください。
他に言われての謝罪なぞ、意味はない」
じっと睨む瞳が永井幹部に向かった。
何秒か二人の瞳が会話を成した後、永井幹部がいつものような笑顔に戻って、仕方ないな、と笑った。
芥川君の頭を撫でる手も優しくなった。
『本人がいいなら、これはおしまいです。
強い彼には後で何か差し上げましょうかね』
「……いらぬ」
『無花果でも?』「……いる」
微笑んで楽しそうに表情を変える。
その顔は先ほどの憤怒の顔とはかけ離れたような幸せそうな顔だった。
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しぇるふぃあ。 - すみません、「聖バレンタイン日」が「生バレンタイン日」になってます…!小泉幹部すごく好みです、更新応援してます!! (2018年3月21日 12時) (レス) id: 2fca820d76 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃら - 面白いです!頑張って下さい! (2018年3月11日 12時) (レス) id: b7f29ff674 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - かれんさん» 今回の話の題名では、夢主さんが最年長幹部なのでそれをそのまま題名にさせてもらっています!太宰さんは確かに最年少幹部ですけどね! (2018年2月23日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
かれん(プロフ) - 下のコメントに「最年長幹部では?」とありますが、正しくは「最年少幹部」なのでは?細かいところすみません、お話、最高に面白かったです! (2018年2月23日 21時) (レス) id: bd11a80ca1 (このIDを非表示/違反報告)
hi - 凄く楽しかったですこれからも更新頑張ってください (2018年2月8日 17時) (レス) id: 8a1cd5ab5f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2018年1月27日 19時