検索窓
今日:13 hit、昨日:1 hit、合計:118,606 hit

百話記念『煙る愛を貪ると』 ページ26

太宰君に連れられて行きつけだというバーに来た。煙草で一服することを許可された私は早速それを貪り始める。
苦味が肺に行き渡る。その痛みにも似た心地よさは嫌いではなかった。
仕事中の人殺しの後は特に欲しくなる苦味を噛み締めながら太宰幹部の隣でまた煙を吸った。




『君はあまり煙草を好まないと思っていたよ』



「嫌いじゃありませんよ。酒の方が好ましいだけで」



『残念ながら酒は苦手で。カクテルなら飲めるのですが』



「なら、今度私が奢って差し上げますよ」




『これはこれは太っ腹ですね、太宰幹部』




一定の会話を終えてふと太宰幹部の前に置いてある柔らかそうなカクテルを眺める。
昔、飲んだことがあるものだ。
確か名前は……そう、カルーアミルク。
甘くて苦い独特なカクテルだ。太宰幹部はその手のものも好むのかと少し興味を抱いた。
タバコを懸命に少量ずつ吸って吐いてを繰り返している太宰幹部にふと、小さな悪戯心が湧いた。


『太宰幹部、試しに大きく吸って見なさい。
もっとよく吸った方が味が出る』



太宰幹部は素直にそれを聞き入れて強く吸う。途端に咳き込んで体を曲げた。口元を押さえて苦しそうだった。手を伸ばそうとしてハッとして止まった。
口元からこぼれ出る煙草の煙。
それに変えられない欲が溢れるのを感じてしまった。
おかしいと私はすぐに察知した。
自分でそれを抑えるために何度かまた煙を吸った。やがて満たされてあの考えは消えた。
しかし、太宰幹部の口の端からこぼれ出そうだったあのわずかな煙が、太宰君のあの姿がとても珍しくそして愛おしいとさえ思ってしまった。
太宰幹部が咳き込みながら少し色の濁ったカミーアミルクを飲み込んだ。


『カミーアミルク』



「……悪戯好き?」



カクテルの意味に気づいた博識の太宰君にいつもの仕返しだというふうに笑う。
悪くないと呟く言葉に私はまた息を吸った。
煙草の灰が落ちた。




「なら、永井幹部はこれですね」




太宰幹部が片手に煙草箱を持った。また中身のあるそれにはhi-liteの文字が白く浮かんでいる。




「最も明るい部分」




微笑んで太宰幹部が2本目を吸い始めた。
私が最も明るいなら、君はきっと最も暗い部分なのだろう。同じものを貪っていながら味の感じ方はまるで違う。
しかし、光があるから闇が映える。
そんな関係の方が私は好ましく思える。
私も2本目を取り出した。




また、煙を貪った。

心得22つ目《教育のこと》→←百話記念「煙る愛を貪ると」



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (196 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
343人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

しぇるふぃあ。 - すみません、「聖バレンタイン日」が「生バレンタイン日」になってます…!小泉幹部すごく好みです、更新応援してます!! (2018年3月21日 12時) (レス) id: 2fca820d76 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃら - 面白いです!頑張って下さい! (2018年3月11日 12時) (レス) id: b7f29ff674 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - かれんさん» 今回の話の題名では、夢主さんが最年長幹部なのでそれをそのまま題名にさせてもらっています!太宰さんは確かに最年少幹部ですけどね! (2018年2月23日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
かれん(プロフ) - 下のコメントに「最年長幹部では?」とありますが、正しくは「最年少幹部」なのでは?細かいところすみません、お話、最高に面白かったです! (2018年2月23日 21時) (レス) id: bd11a80ca1 (このIDを非表示/違反報告)
hi - 凄く楽しかったですこれからも更新頑張ってください (2018年2月8日 17時) (レス) id: 8a1cd5ab5f (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:NamE.薆 | 作成日時:2018年1月27日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。