心得20つ目《眼鏡のこと》 ページ23
報告を終えて芥川君を連れて仮のアパートに戻った。割といい部屋だとは思う。
私は芥川君の一階上に住んでいる。別段することもないので、同じ階層にいる中也をいじるためだけに寄ったりする。
決してそこで飲食や寝泊りをしてるわけではない。もともと寝ることも食することもしないからだ。特に必要なとき以外はしない。
最低限で十分だし、あまり欲しい気分になれない。
「芥川君、これが鍵だ。無くさずに持っていなさい」
「太宰さんもここに住んでおられるのですか?」
「住んでるけどあまりいない。そんなことを気にするくらいなら自分の衣食住について考えたらどうだい?自分で何か作れるのかい?服は?」
芥川君が黙り込む。
さすがに言い過ぎたかと思ったがその闘志にも似た瞳の炎を見て仕舞えば後から情けをかけることも馬鹿馬鹿しくなる。
「せいぜい自分で頑張りなよ。困っていれば誰かが助けてくれるような甘い世界じゃないんだ」
言い残して適当にその辺りを歩く。
道を歩く学生。
横断歩道を渡る幼子たち。
なんと幸せそうに笑うのだろう。
なんて平和そうに笑うのだろう。
この世界の本質を全く気にしていないようなそぶりで歩き、喚き、愛し、死ぬのだ。
「平和な人たちだ」
「お前の頭も平和ボケしているな」
背後から声が聞こえてとっさに軽く身構えた。しかし振り向いた瞬間に嫌な印象しかない眼鏡がいた。まだぴっちりとしたスーツを着ている。
しかし片手には安売りの卵やら肉やらをいれた袋を持っている。
買い物帰りの主婦か。
「買い物帰りの主婦かと思っただろう」
「思いましたけど、何か?」
「お前みたいに不健康そうなやつと違って俺は健康管理をしっかりしている。
お前みたいなやつとは違ってな」
いちいち癪に触る言い方をする男だ。
眼鏡を押し上げて鼻で笑い、私を見下すようなあの眼差し。
私の嫌いなタイプのやつだ。絶対に意見が合わないようなやつだ。嫌だ嫌だ、中也より嫌いだ。
「噂によるとお前、死にたいらしいな」
「……だから何。生死を誰かの理論で決めて欲しくないね」
睨みながら言うと、眼鏡は少しだけ羨みを込めた目で私を見た後、また私を鼻で笑った。
馬鹿にしているような風に威張っている。
「自ら死にに向かうなんて、貴様には死にたい理由でもあるのか」
嘲笑うような口ぶりに思わず喚くように反論を返した。
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しぇるふぃあ。 - すみません、「聖バレンタイン日」が「生バレンタイン日」になってます…!小泉幹部すごく好みです、更新応援してます!! (2018年3月21日 12時) (レス) id: 2fca820d76 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃら - 面白いです!頑張って下さい! (2018年3月11日 12時) (レス) id: b7f29ff674 (このIDを非表示/違反報告)
NamE.薆(プロフ) - かれんさん» 今回の話の題名では、夢主さんが最年長幹部なのでそれをそのまま題名にさせてもらっています!太宰さんは確かに最年少幹部ですけどね! (2018年2月23日 22時) (レス) id: 71af860354 (このIDを非表示/違反報告)
かれん(プロフ) - 下のコメントに「最年長幹部では?」とありますが、正しくは「最年少幹部」なのでは?細かいところすみません、お話、最高に面白かったです! (2018年2月23日 21時) (レス) id: bd11a80ca1 (このIDを非表示/違反報告)
hi - 凄く楽しかったですこれからも更新頑張ってください (2018年2月8日 17時) (レス) id: 8a1cd5ab5f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:NamE.薆 | 作成日時:2018年1月27日 19時